【1995年 規則改正なし】
【1996年】
日本野球規則委員会は、去る2月5日、以下に記す3項目を本年度の改正規則として発表しました。
(1)7.08(b)の[注一][注二]および[問][答]を現行の[原注二]の後から[原注一]の後に移す。
これにともない、[原注二]を次のように改める。(下線部分が追加個所)
[原注二]三塁本塁間で挟撃された走者が妨害によってアウトを宣告された場合には、後位の走者はその妨害行為発生以前に、たとえ三塁を占めることがあっても、その占有は許されず二塁に帰らなければならない。また、二塁三塁間で挟撃された走者が妨害によってアウトになった場合も同様、後位の走者は一塁に帰らなければならない。妨害が発生した場合にはいずれの走者も進塁できないこと、および走者は正規に次塁に進塁するまでは元の塁を占有しているものと見なされることがその理由である。
(2)同[原注二]の「しかし、走者・…・」以下は削除し、[原注二]の[注]として追加する。
[注]走者一・三塁のとき三塁走者が三塁本塁間で挟撃され妨害によってアウトを宣告された場合、一塁走者がその妨害行為発生以前に二塁を占めておれば、一塁走者には二塁の占有が許される。
(3)8.01(a)①および同(b)②を太字にする。(両個所とも同文)
打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。
8.01(a)①、(b)②の改正
アマチュアでは投手が投げ手を用いて出すブロックサインはボークに
以上の改正文を一読しますと、一部新文章の追加挿入はありますが、その他は既存規則文章の掲載場所や書体の変更のみで、本年も昨年に引き続きルール適用上の解釈の変化は全くないかのように読み取れます。
しかし、アマチュア野球規則委員会は、改正文の第3番目の「投手の投球動作」に関する発表文の趣旨をことのほか重く受け止め、なぜこのような発表が成されたかという真意を厳格に解釈し、プロに先駆けて、近年投手の動作として慣例となっていた「投手自らが投げ手を用いて出すブロックサイン」を全面的に禁止する方針を取り決めました。これはアマ球界にとっては、規則適用上の大変革であるとも考えられますので、まずそのことについての説明を行いたいと思います。
アマ・プロを問わず近年急速にはやり出した投手が用いるこの動作(投げ手を用いて出すブロックサイン)は、いつごろからだれがどこで使い始めたかは定かではありませんが、最近日本球界だけに蔓延し始めた悪しき習慣でありました。
ここでいきなり「悪しき習慣」という表現を用いたのは、実は、この動作を現行規則に当てはめて厳格に判断すると、明らかな規則違反であるという考えが成り立つからなのです。委員の中には、当初からこのような判断の下に、この動作を即刻禁止すべきであるという強行論者もおり(実は筆者もその一人)、委員会としてはしばしばこの問題に関する論議を重ねていたわけです。
規則違反を唱えた人たちの挙げるその理由は、まず第一に、何といっても、この動作は日本の球界だけにはやっている特異な動作で、国際的には全く通用しないこと、第二に、規則を厳密に解釈すれば8.01(a)①および同(b)②と同[原注]の前段3行に抵触してしまうこと、第三に、試合をスピードアップさせるために作られた8.04(3行目以降)の根底に流れる真意を理解すれば、同規則および8.05(h)にも抵触してしまうこと、というものでした。
しかし一方では、ち密な高度な面白い野球をやるために必要であるならば投球動作に入る前の姿勢をあまりにも厳しく規制することもないのではないかという考えもあり、委員会としては今日までこの動作にペナルティーを科すか否かについては慎重に検討をし続けてきたわけです。
そうこうしているうちに、ここ2、3年の間にこの「投げ手を用いて出すサイン交換」の動作が拡大化、煩雑化の一途をたどり、投手によっては明らかに規則違反をしていると思われるしぐさを平然と行ったり、非常に紛らわしい動作を繰り返すという行動が目立ってきました。そこでアマ規則委員会では、国際的にも通用せず、規則上からも違法と見られるのに野放しとなっているこの動作を厳しく律するという大英断を行ったわけです。
動作を言葉に換えて表現するということは大変難しいことですが、二、三、例を挙げますと、問題になった動作とは次のようなものです。
①セットポジションの足の置き方をしてサイン交換のために前傾姿勢をとった投手が、投げ手を用いて捕手との間で何回も何回も同じ動作を繰り返しながらサイン交換を行う。
②塁上に走者がいるとき、①と同じ行動を野手との間で繰り返す。
③セットポジションの足の置き方をして、サイン交換のために前傾姿勢をとった投手が、サイン交換を終えた後、直ちにセットポジションをとる行動に入らず、上体を起こしただけで(直立させたような姿勢)塁上の走者に目をやったり、野手からのサインに見入ったり、あるいは自ら再び投げ手を用いて野手とのサイン交換を行う。
以上のような動作は、規則を正しく適用するならば、いずれもボークの対象となり得る動作であると言えます。
つまり、①と②はスピードアップの基本精神から考えても明らかにそれに逆行する行為ですから、8.05(h)を適用されて遅延行為と見なされでも仕方のない動作ですし、③も明らかな投球動作の中断・変更に当たると判断されますので、8.01(b)②を適用され、ボークを宣告されても当然です。
また、何といっても①・②・③の動作に共通して言えることは、サイン交換の際に投げ手を動かすということは、8.01(a)①および(b)②(本年度改正規則第3番目発表文)を厳格に適用するならば、「投げ手が動くという動作だけで、セットポジションに入った」と見なされても仕方がないということです。
以上のような理由から、アマ規則委員会は5団体から選出されている代表委員全員の賛同を得て、本年度より「投手自ら投げ手を用いて出すブロックサイン」の全面禁止、ボークルールの適用を打ち出したわけです。
また、それに付随して、
①プレート上の投手が塁上の走者に対して、投げ手にボールを持たないで偽投した場合
②投手がプレートをはずしてサインの交換を行った場合
いずれも8.05(h)を適用、遅延行為としてボークにすることを申し合わせました。
これらの取り決めは一見、アマ野球界が規制を一段と厳しくする方向へ進んでいるのでは、と考えられがちですが、むしろ委員会としては、日本の野球を「競技力がよりよい形で表現され、スピード感のあるプレイがより多く展開される野球」という「本来の正しき姿」に戻したいという思いを込めて取り決めたという真意があるわけです。
本来、投手とは、ボールを持ったら速やかにプレートにつき、捕手が主導権を握って出すサイン交換を速やかに行い、日ごろ鍛えた自己の投球術(技と力)で打者に立ち向かい、一人でも多くの相手打者を打ち取る役目を担うプレイヤーであるはずです。この役目ができないものは、どんなにけん制がうまくても、どんなにサインを綿密に取り交わしても、真の勝利者にはなれないはずです。けん制で走者を刺そう、手先や目先だけで打者をごまかそうなどということばかりに執着すると、本当の競技力は身に着かず、必ず規則違反につながってしまうものです。規則を勝手に解釈して、その抜け道を探し出し、自己のプレイを有利にしようとする行動は、たまたま成功することはあっても、それでは本当の力で相手に勝ったことにはなりません。すぐにメッキがはがれてしまいます。指導者や投手の皆さんも、この大切な、スポーツの中に存在する哲学や精神をしっかりと理解され、真の競技力の習得に励んでほしいと願わざるを得ません。
「次の一球に何を投げるか」ということはここぞという場面ではとても大切なことですが、それ以上に大切なことは「自己が自信を持って投げられる力のあるボールをいくつ習得し、それを実際に大切な場面でちゅうちょなく思い切って投げることができるのか」ということではないでしょうか。
投手はそのような試合に勝つために最も大切な投球術を一つでも多く身に着ける努力をしながら、相手の攻撃にさわやかに立ち向かってほしいものです。
以上、本年度改正規則の第3番目の発表文に基づいたアマ規則委員会の「従来から投手が行ってきた動作を規制する取り決めについて」の説明を記しました。アマチュア野球に携わるすべての人々からの十分なご理解を得られますことを願っております。
7.08(b)に関する改正
明確な規則理解のため原文に忠実な訳文と日本で加えた説明文を分けたもの
さて、順序が逆になりましたが、改正規則の第1、2番目の発表要旨について以下に説明を記します。
95年度の規則書と改正発表文を見比べていただければお分かりになることと思いますが、この(1)、(2)項の改正は、既存掲載文の掲載場所変更が4項目(注一・注二・問答・原注二後段3行“しかし”以下)と新規文章の追加挿入が1カ所の合計5項目の改正です。すぐにお気づきのことと思いますが、規則適用上の解釈の変更改正ではありません。これは日本野球規則委員会が94年以降精力的に行っている原文(アメリカで毎年発刊されているルールブック)とわが国の規則書との相違点の比較調査研究の成果の第3弾です。
元来日本で発刊されている規則書は、原文をできるだけ忠実に訳したものが基盤になっていますが、これだけでは幅の広い日本の球界にはどうしてもうまく対応できない、あるいは理解されないと思われる個所が多々あります。そのため、規則委員会では長い年月をかけてさまざまな個所に追加説明文を挿入し、より一層の理解を深めるための一助としてきました。それが[注]とか、一部[問・答]のタイトルとなって書かれている文章です。
しかし、年月が過ぎ、規則改正も度重なるうちに、そのような日本規則委員会で作成し追加掲載した説明文章が原文の訳文の中に入り組んでしまったり、また原文の訳文が現時点で解釈するとあまり適切ではないとされる個所が少しずつ目につくようになりました。そこで日本野球規則委員会は、「規則の原文と日本語訳との見直しに取り組み完ぺきな野球規則書を目指す努力」を数年前からしはじめたのです。
本年度のこの7.08(b)項に関する一連の改正は、そのようなことが理由となって行われたものです。つまり、95年度までの規則書に書かれていた当項[原注二]の後段3行の「しかし……」以降の文章は、日本の規則委員会が当項の規則を分かりやすくするために、プレイの具体列を引用して作成した文章であったのです。
しかし、前述の通り、原文に忠実な完ぺきな規則書を目指すためには、原文の意が正しく伝わるように書き改めた方がよいとの意見が多く出され、原文に忠実な和訳文を挿入することになったわけです。それにともない「しかし…・・」以下の従来から掲載されている日本の委員会が作った文章をどうするかという検討がなされましたが、当項規則を分かりやすく理解する上には非常に適切な例文であるとの結論を得て、文章冒頭の「しかし」だけを削除して、規則書本来の正当な姿である[注]のタイトルをつけ、[原注二]の後に残すということになったのです。これにより、[原注二]に記されている規則がより明確に理解されるようになったわけです。
また、[注一][注二][問・答]文の掲載箇所変更は、お読みになればすぐに理解されることと思いますが、これらの文の内容がすべて[原注一]の本文に関する追加説明事項であるため、より適切な個所へ移し換えを行った次第です。
以上が本年度の改正規則の概要説明ですが、新規挿入文の元となった原文を以下に記しておきますので、興味のある方は参考になさって、この特例とも思われる「前位の走者がランダウンプレイ中に妨害によってアウトを宣告されたときの後位の走者の帰塁基準位置」の規則を、より一層理解するために役立ててください。
(新規挿入文原文)
The reasoning is that no runner shall advance on an interference play and a runner is considered to occupy a base until he legally has reached the next succeeding base.