【1999年】
日本野球規則委員会は、去る2月5日、下記7項目を本年度の改正規則として発表しました。
(1)規則1.09【軟式注】を次のように改める。
A号 反発 85.0㌢~105.0㌢
C号 重量 126.2㌘~129.8㌘
H号 重量 141.2㌘~144.8㌘
(2)フェアボール第4図説明を次のように改める。
(傍線部分が追加箇所)
最初落ちた地点が、内野と外野との境にあたる一塁二塁間、二塁三塁間の線上、または外野のフェア地域であれば、その後内外野を問わずファウル地域に出てもフェアボールである。
(3)3.15【付記】を次のように改める。
(傍線部分が追加箇所)
前記カッコ内の攻撃側メンバー、べ一スコーチ及び審判員については7.11、7.08(b)、5.08及び5.09(b)参照。
(4)7.09(c)【注】「走者がこの項に該当したときは、ボールデッドとなり、他の走者は進塁できないが、打者には一塁が許される。また打者が走者となった結果、進塁を許された走者は進塁できる。」を削除する。
(5)8.01(b)【原注】傍線部分を太字にする。
投手はセットポジションをとるに先立って、片方の手を下に下ろして身体の横につけていなければならない。
(6)8.05ペナルティ【付記一】を次のように改める。(傍線部分を挿入)
投手がボークをして、しかも塁または本塁に悪送球(投球を含む)した場合、塁上の走者はボークによって与えられる塁よりもさらに余分の塁ヘアウトを賭して進塁してもよい。
(7)8.05ペナルティ【注一】四行目「なお、“その他”には、捕手またはその他の野手の打撃妨害を含まない。」を削除する。
以上の7項目は、いずれも原文(アメリカの規則書)改正のための変更ではなく、我が国の規則委員が委員会に提案した議題を審議し、全委員の合意を得て発表したものです。その内訳は、本文の書き改めが(1)1件、文および符号の追加挿入が(2)(3)(6)3件、書体の変更(太字)が(5)1件、注釈文の削除が(4)(7)2件となっています。その中でプレイに直接影響のある改正項目は、(4)(6)(7)の3項目です。つまり、(4)(7)が規則適用上の解釈の変更、(6)がその解釈をより明確化したものであるからです。そこで本年は、この3項目を中心に、その改正理由と適用上の解釈の仕方を説明しておきます。
7.09(c)【注】の削除
(4)の改正は、規則書の見直し作業の中の一環として行われたものです。つまり、原文に無いこの日本独自の【注】文が、規則の精神(対等の条件の保証)から判断しても、「まったく合理的ではない」という考えから得られた改正です。
すなわち「攻撃側プレイヤー(走者)がファウル地域を転じている打球の進路を故意に狂わせたプレイに対して、なぜ、打者走者を一塁へ進ませる必要があるのか」という率直な疑問から生じたものです。つまり、
①ファウルボールの定義(2.32)の(d)項に「打球がファウル地域でプレイヤー(この場合走者)の身体に触れたらファウルボール」と定められているにもかかわらず、打者に打ち直しをさせずに一塁を与えてしまうのか。
②当項原文には「(打者または)走者がファウル地域を転じている打球の進路を、どんな方法であろうとも故意に狂わせた場合」<7.09 It is interference by a batter or a runner when~(c)He intentionaly deflects the course of a foulball in any manner;>としか記されてなく、その文面からは、打者走者に一塁を与えるという解釈はまったく読み取れず、走者がファウルの打球を故意に狂わせたら当然走者は妨害行為でアウト、打球はファウルボールとして扱っていることが明確なのに、なぜ、日本の規則書だけにこのような【注】が記されているのか。
③「打者がファウル地域を転じている打球の進路を、どんな方法であろうとも故意に狂わせた場合は、即座にボールデッド、打者をアウト(6.05、i)にし、他の走者の進塁は認めない(2.44、a、原注)」ことが規則で明記されているにもかかわらず、走者が同様な行為をしたときには、なぜ打者を一塁へ進めなければならないのか。
等々の疑問が生じたわけです。そこで、それらを原文および他の関連項目と比較しながら多角的に検討した結果、この【注】は不合理である、という結論に達したのです。
改正の主旨を理解するために、実際に、もしこの【注】に記されているプレイが発生した場面を想像してみることにします。すると、それがある一つの限られたプレイにだけ適用される規則であることがわかります。それは「三・本間を走っている走者がファウル地域を転じている打球を故意に蹴飛ばして打球の進路を変えてしまったとき」です。とすると「走者が何のためにこのようなプレイをするのか」、また「過去にこのようなプレイが実際に起きて、当項【注】を適用した事実があったのか」と考えることになります。
走者がファウルの打球を故意に蹴飛ばす理由は、その打球をファウルにしたいか、フェアにしたいかのいずれかです。ファウルにしたいと思うときは、もしその打球がフェアになったら走者自らがアウトになる確率が高まるとき、フェアにしたいときは、逆に走者が生きる可能性が強いときのいずれかであると考えられます。つまり、ファウルにしたい打球は、放っておくとフェアになる可能性が強い打球、フェアにしたい打球はその逆の打球であることが想像されます。
しかし、このような場面でとっさの判断で大きなリスクを背負ってまで「打球を故意に蹴る」という不正な行為を行う走者がいるのだろうかと、はたと考えてしまいます。そこで、昨年一年間をかけて、過去に国内の主要な試合で、このようなプレイが生じた事実があるかとうかをできうる限り調査してみました。しかし、プロ・アマともに過去相当の長い年月にわたって、この7.09(c)項【注】を適用したプレイは見当たらないことがわかりました。それならば、この不合理性を伴った無用の長物の【注】を削除して、原文を率直に読み取る条文にしようということになったのです。
実は、この【注】文は、プロ・アマが規則書の合同化を図り、それが実現し、我が球界にとっての画期的年となった1956年から、実に43年間の長期にわたって掲載されていたものです。それ以前(1950年一55年)のアマチュアが発刊する「公認野球規則書」にも【注】文が記されていましたが、それは、次のようなものでした。
【註】これは6.05(I)で規定するとおり打者一走者が一塁へ走る間にファウルボールがフェアボールになりそうだというのでこれをわざと蹴って進路をそらした場合をいう。
それが、合同化を実現した1956年からは、以下のように書き改められたのです。
【註】打者に関しては、6.05(i)でアウトになる。走者がこの項に該当したときは、7.08(b)の適用をうけてアウトとなる。この際試合停止球となり、他の走者は進塁できないが、打者には一塁が許される。また打者が走者となった結果、進塁の義務が生じた走者は進塁できる。
この【注】文は、昨年まで規則書に掲載されていたものとほぼ同文で、その適用の解釈もまったく同一のものでした。つまり、実に43年間の長期にわたって、現実の試合では起こりえない原文とは異なった解釈の規則を規則書に載せていたのです。
我が球界にとって大いなる進展を遂げた、プロ・アマの統一規則書を作成した初年度に、どうしてこのような【注】文を加えることになったのか、当時の委員会の詳細な議事録が残っていない今日では、その真意を明確に把握することはできませんが、後年のプロ側規則委員会で「打者に一塁を許すのはおかしい。ファウル地域で当たったときはファウルボールになるのではないのか」と当【注】文が再度検討されたときの審議事項のメモに次のような結論が記されていることから、その理由の一端を垣間見ることができるようです。『原文「……deflects the course of a foulball……」から、ファウルボールをフェアボールにしようとしたことが読み取れる。したがって、フェアボールに対して故意の守備妨害をしたと見なすべきである。打者を一塁に生かすことは止むを得ないが、打者には安打を与えることはない』つまり、打球を「フェアボールに限りなく近いファウルボール」と位置づけ、5.09(f)、6.08(d)、7.04(b)~2、7.08(f)、7.09(m)の各条項を準用して「打者を一塁に生かす」との解釈をとっていたのです。しかし、現規則委員会は、原文を率直に読み取り、「ファウル地域で打球に触れているのだから、打者はファウルボールで打ち直し」という解釈を採用することにしたのです。
8.05ペナルティ【附記一】の改正
(6)の新規改正文(投球を含む)の挿入は、規則適用上の解釈をより明確化するために行われたものです。
審議の発端は、次のような問題提議でした。「当項には、投手がボークをして、しかも塁または本塁に悪送球した場合、と記されているが、この場合の悪送球には暴投も含まれるのか」。そして、次のような具体例が一つの検討材料として提示されました。
「走者一塁、投手がボークをして、その球が暴投となってバックネット際を転々とした。それを見て、走者は二塁を越えて三塁まで走った。この場合、一塁走者は三塁占有が認められるのか、それとも二塁止まりなのか。暴投も含まれるとすれば、三塁への進塁が許されることになるが、投球と送球は規則上使い分けられているから、暴投は含まないとなればボークが優先、ボールデッドとなり走者は二塁止まりとなる。どちらが適切な解釈か」
これには委員会の審議過程で様々な意見が交換されました。その一端を以下に記してみます。
①四死球のときを除いては投球には含まれない。この場面では、ボールデッドとしてボークが優先される。
②ボーク後の本塁への悪送球は、カウントされない(悪投球ではない)からインプレイである。
③この【付記一】が規則書に挿入されたのは1972年だが、そのときの日本社会人野球協会の「規則適用上の解釈」によれば、「走者がはじめからその塁を越えて余分に進んだときだけボークと関係なくプレイは続けられる。ボークで進んだ塁に達した後、余塁を奪える状態が生じても、本項は適用されない。」とある(1972年には、現行【注二】も新規挿入されている)。
④現在、アメリカの大リーグでもア、ナ両リーグで解釈が異なるようだ。ア・リーグでは投球も含むとの解釈をとり、インプレイとしている。ナ・リーグでは、ボールデッドで進塁は一つ(ボーク優先)としている。また、マイナーリーグの審判のマニュアルには、「暴投の場合、プレイが終わるまでタイムをかけるな」と書いてある。
⑤ボークにもかかわらずプレイを止めないということからすると、悪投球の場合も字句・文言の解釈にとらわれずインプレイにしたほうがよい。プレイを生かぜは、現場もやりやすい。
つまり、「ボールデッドにしない限り走者は進塁できる」という説と、「この場合はボールデッドだ」という二つの説に解釈が分かれたのです。そこで、この問題を解決するために、当項【付記一】が原文に挿入された1970年以降の原文、および、我が国の規則書、さらには当時の議事録や会報(審議決定事項報告書)をもうー度しっかりと読み直すことにしてみました。その結果、当時の委員会が当項規則の適用に関して大変な苦悩と激論を戦わせていたことがわかりました。当時のその論議をここで逐一取り上げることは紙数の都合上不可能なことですが、本来、原文改正後1年遅れで我が国の規則書に採用されることになっている改正条文が2年遅れの72年に挿入された事実をみても、それは理解されるところです。そして、そのような歴史的経緯を調査して得た結論は、次に記すものでした。
『本項【付記一】の“悪送球”には、投手の“悪投球”も含まれる。ただし、ボークをした後の本塁への悪投球が四球(べ一ス・オン・ボールズ)目に当たる場合でフォースの状態にあるときはペナルティ後段三行目「ただし、・・・・」以下の通りプレイはボークと関係なく続ける(カウントする)こととする。しかし、フォースの状態ではないときは(本項【付記一】を適用しても)打者は四球で出塁できない(カウントしない)。
投手が投手板を踏んで投球した動作がボークとなったが、投手がその後動作を止めず、引き続き打者に向かって投げたボールを投球として認める場合は、ペナルティ三行目「ただし……」以下と【注一】二行目中段までのプレイのみである。』
以上のような結論から前記の検討材料として提示された[一実例]の答えは、「一塁走者の三塁進塁は許される(インプレイとして扱う)」ことが確認されました。
そこで、この委員会の解釈をさらにわかりやすくするために、以下に例を記しておくことにします。参考にしてください。
例1.一死走者一塁、ボールカウント1ストライク2ボール。ボークの投球が暴投になり一塁走者は一気に三塁への進塁を試みたが、捕手からの送球でタッグアウトになった。
〔処置〕走者なし、二死、1ストライク2ボールで再開(このとき、もしボールカウントが0ストライク3ボール、1ストライク3ボール、2ストライク3ボールであったならば、打者に一塁を与え、二死走者一塁で再開となる)。
例2.一死走者二塁。ボールカウント2ストライク3ボール。ボークの投球が暴投になり二塁走者は一気に本塁へ生還した。
〔処置〕走者なし、得点1。一死、2ストライク3ボールで再開。(フォースの状態でないときは本頃【付記一】を適用しても)打者への四球目の投球は取り消され、打者は2ストライク3ボールのカウントから打ち直すことになる。この場合、投手の本塁へ投げた球は、ピッチではなくスローとなり、二塁走者はボークで三塁へ、悪送球で本塁へ進んだことになる。なお、【注一】後段に記されている条件(走者二塁だけ、三塁だけ、または二・三塁、一・三塁)で【付記一】のプレイを認めずボークを優先しボールデッドとする場合は、打者への四球(べ一ス・オン・ボールズ)目の投球が悪投球(暴投)にならなかった場合である。
8.05ペナルティ【注一】の一部削除
(7)の改正は、ペナルティ後段文の「その他」の中に、「打撃妨害が除かれているのはおかしい」という率直な疑問から生じたものです。つまり、「打者が一塁へ出塁するプレイに、なぜ打撃妨害が含まれていないのか、含むべきだ」という提議です。
この問題が初めて委員会の議題に上がったのが、本年早々1月9日に行われたプロ・アマ合同委員会の席上でした。そこから検討が始まったわけですが、委員会としては、この提案にさしたる疑問も抱かず、簡単な議論の後に「その他に打撃妨害を含む」ことを決定したのです。つまり、「投手がボークをした後の投球で打撃妨害が生じた場合、ペナルティ後段“ただし……”以降に記されている条件のもとでは、打撃妨害を認め打者に一塁を与える」ことにしたわけです。委員会は、一委員の率直な疑問を率直に受け入れ、また、打撃妨害というプレイも極めて率直に考えての率直な結論であったわけです。
ところが委員会は、この結論がその後の改正事頃確認作業の中で大変な難題を抱えていることに気づいたのです。つまり、この改正に関連する規則書内に記されている条文(6.08,c、7.04,d、7.07)との矛盾点が浮き彫りにされたからです。委員会はその矛盾点を、今後できるだけ早い時期に、一貫した整合性を持った条文に再調整することが不可欠となってきたのです。と同時に「打撃妨害」というプレイをより深く多角的に考え、委員会の先人たちが、なぜ「打撃妨害を含まない」という規則を昨年まで【注】として規則に載せていたのか、ということを再調査研究する必要に迫られてきました。
この昨年までの【注】文が規則書に初めて登場したのが1959年です。そこには「なお“その他”には、四死球、捕手またはその他の野手の打撃妨害を含まない。」と記されています。そして、翌1960年からは「四死球」の文字が消え、「打撃妨害」だけとなり現在(昨年まで)に至っていたのです。しかし、1956年(プロ・アマが歩み寄って初めて規則書の統一化を実現した記念すべき年)には「四死球、打撃妨害を含む」と記され、57、58年には「野手選択」の文字だけがカッコの中に記されているのです。
このような歴史的経緯をちょっと顧みても、当時の委員会は、この問題について、試行錯誤しながら激論を戦わせていたことが容易に想像できます。現委員会は、規則書作成の日時が追っていたこともあり、関連規則の再調整を来年度に先送りするような形で「その他のプレイ」に「打撃妨害」を含むことだけを率直な理解のもとに結論づけてしまいましたが、今後はこの改正を維持していくために、プレイの「確固たる合理的な解釈」を求めて、もうー度徹底的に過去の議事録を含めた歴史的経緯を再研究するとともに、この件に関連する規則書条文を整合性を持った新条文に書き改めるという、新たなる責任を負わされることになりました。そこで、本年度の当項の改正については、以下に、率直な理解をもとにした例を挙げることで、ひとまず改正の主旨説明とさせていただきます。
◎ボーク後の投球に守備側の打撃妨害(打球がフェアヒットにならない)があった場合。
例1.走者一塁、一・二塁、満塁のとき、投手がボークの判定を受けたが、かまわず投球、その投球を打とうとした打者が打撃を妨害された。
〔処置〕打者には一塁を与え、各走者には一個の進塁を許す。
例2.走者二塁だけ、三塁だけ、あるいは二・三塁、一・三塁のとき、投手がボークの判定を受けたが、かまわず投球、その投球を打とうとした打者が打撃を妨害された。
〔処置〕打者は打ち直し、各走者には一個の進塁を許す。
例3.走者二塁。その走者が盗塁を敢行、そのとき投手がボークの判定を受けたが、かまわず投球、その投球を打とうとした打者が打撃を妨害された。
〔処置〕打者には一塁を与え、走者には三塁の占有を許す。
例4.走者三塁。スクイズプレイが行われた。そのとき投手がボークの判定を受けたが、かまわず投球、その投球をバントしようとした打者が打撃を妨害された。
〔処置〕三塁走者の得点を認め、打者には一塁を与える。
例5.走者一・三塁。スクイズプレイが行われた。そのとき投手がボークの判定を受けたが、かまわず投球、その投球をバントしようとした打者が打撃を妨害された。
〔処置〕三塁走者の得点を認め、打者には一塁を与え、走者一・二塁で試合を再開。
例6.走者二・三塁。二塁走者も三塁ヘスタートを切るスクイズプレイが行われた。そのとき投手がボークの判定を受けたが、かまわず投球その投球をバントしようとした打者が打撃を妨害された。
〔処置〕三塁走者の得点を認め、打者には一塁、二塁走者にも三塁を与え、得点1、走者一・三塁で試合を再開。もし、このとき二塁走者が次塁への進塁を企てていなかったときは、ボークが優先し、三塁走者を本塁へ、二塁走者を三塁へ進め、得点1、走者三塁で打者は打ち直しとなる。
(1)(2)(3)(5)の4項目の改正は、いずれも規則適用上の解釈の変更ではありません。(1)は、全日本軟式野球連盟からのボールの重量および反発力係数の変更届けに従って書き改められたもの、(2)(5)はアマチュア内規改定に伴い、本則と重複している内規条文を削除した代わりに、本則に記されている同関連条文に引き続き注意を払ってもらうために、わかりやすく書き改めたり書体を変えたりしたもの、(3)は当規則の関連条文が記されている項目の符号の追加挿入です。いずれも説明を要するものではありません。以上で1999年の改正規則の解説といたします。