【2000年】
改正規則4項目を発表
日本野球規則委員会は、去る2月4日、下記4項目を本年度の改正規則として発表しました。
その内訳は、(1)が商標の大きさの変更問題(プロ側のみ適用)、(2)(3)(4)がプレイに関する規則となっており、この三つの項目は、昨年の改正項目の(4)と(7)に関連があるものです。したがって、(2)以降の項目については、昨年の改正発表文とその解説文(本誌99年5月号に掲載)を併読しながら理解をしていただければ幸いです。
(1)規則1・17【注三】④を次のように改める。 (傍線部分が改正及び追加箇所)
【注三】④ 手袋及びリストバンドに商標などを表示する場合は、一箇所に限定し、その大きさは、 一四平方センチ以下でなければならない。(アマチュア野球では七平方センチ以下でなければならない。)
(2)6・05(i)を次のように改める。(傍線部分が改正個所)
打者が、打つか、バントした後、一塁に走るにあたって、ファウルボールの進路を、どんな方法であろうとも故意に狂わせた場合。ボールデッドとなって、走者の進塁は認められない。
(3)7・09(c)を次のように改める。 (傍線部分が改正個所)
打者または走者が、ファウルボールの進路を、どんな方法であろうとも、故意に狂わせた場合。 (六・〇五i参照)
(4)8・05ペナルティ【注一】四行目に「なお“その他”には、捕手またはその他の野手の打撃妨害を含まない。」を追加する。
1・17【注三】④の改正及び一部追加
商標の大きさに関する改正です。
規則1・17は用具メーカーのコマーシャリズムに野球の品格と尊厳が犯されてしまうことがないように、それを守ろうとアメリカが用具の商標の行き過ぎを案じて、1980年に制定した規則です。ただ、この規則には「プロフェッショナルリーグだけに適用される」という但し書きがついていたため、日本野球規則委員会は商標問題を「日本に育った文化としての野球の香気」という理念を基盤として細部にわたって検討し、日本独自の条文を作成し規則書に挿入し、それを今日までプロ・アマ共通の理解として厳守してきました。それが【注一】から【注四】に至る規定文(規則書13~15㌻参照)です。
しかし、昨年11月のはじめにべ一スボールメーカー幹事6社を含む20社がプロ・アマ両規則委員会に、“バッティング手袋及びリストバンドの商標、マーク表現の変更”を申請してきました。それは「規則1・17【注三】④に規定されている商標の大きさ7平方センチ以下を、その倍の14平方センチ以下に改正してほしい」というものでした。その理由として「昨今の野球の世界的な広がりの影響でマーク表現法に海外メーカーが寛大となり、我が国のメーカーとの間にかなりの“温度差”が生じている。また、近年ではプレイヤーの好みや考え方の影響で、海外製品の流入や使用希望者も多く、それが内外メーカー間の過剰な競争を生み出している。それゆえ、新世紀を迎えるにあたり将来を考え、ぜひ海外適合に近いサイズに変更してほしい」というものでした。
そこで委員会は、プロ・アマ独自の立場でこの問題を討議プロは「容認」、アマは「もう少し時間をかけて慎重に検討したい」とし、「本年度も従来通りの規定(7平方センチ以下)に従う」との結論を出しました。特にアマチュア側は、「教育界を基盤として発展してきた球界の品位を守るためにも、21世紀のコマーシャリゼーションについてさまざまな見地からの研究が必要」とし、商標の大きさ制限の撤廃問題の糸口に、一つの警笛を鳴らす立場をとりました。
これによって、本年度より手袋とリストバンドの商標の大きさに関してのみ、プロとアマの間に差が生じることになりました。アマチュアの指導者や選手諸君は、これらの製品の使用にあたっては、海外からの輸入品はもちろんのこと、国内の製品にもプロ用とアマ用があることに十分留意の上、使用するように心掛けてください。
6・05(i)の改正
この改正は、次の(3)番目の改正項目、7・09(c)の本文改正に準じて行われたものです。つまり、昨年までの本文中に記されていた「~まだファウルと決まらないままファウル地域を転じている打球の進路を~」という回りくどい表現をやめて、できるだけ原文に記されている「~the course of a foulball~」という英文に近づくような簡潔な日本文に書き直し、ゴロの打球だけに限定しているように読み取れる「~ファウル地域を転じている打球~」という表現を改め、インフライトの打球を含めたファウル地域に打たれたすべての打球が対象となるような文章にしようとの見解から生まれたものでした。その結論が「~まだファウルと決まらないままファウル地域を転じている打球の進路を~」という文を「ファウルボール」という一語の表現にしたわけです。
しかし、厳密にル一ルを解釈すると、この変更文は「誤った表現だ」と考える賢明な読者諸氏もおられることと思います。つまり、「ファウルボール」とは、規則2・32に記されているように、最終的に「ファウルボール」と認定された(結果が出た)打球を指して言う言葉で、ファウル地域に打たれてその地域をいまだ進行中の打球を指して用いる用語ではないからです。
そのような観点から考えますと、やはり、その表現法としては「~まだファウルと決まらないファウル地域に打たれた打球の進路を~」とするか、あるいは「~まだファウルと決まらないままファウル地域を進んでいる打球の進路を~」とすることが妥当と思われます。しかし、それでは文章の簡潔・簡略化につながらなくなってしまいますので、あえて承知の上で「ファウルボール」という言葉を一般的な広い意味にとらえて、この条文に当てはめることにしたのです。 ゆえに、今回の改定で用いた「ファウルボール」という用語の解釈は、「ファウルボールとして結果が出る前のファウル地域に打たれたすべての打球を指しているもの」という解釈に基づいて使用している表現法であると理解していただきたいとお願いしておきます。なお、それに続く改正個所「狂わせた」(旧交~反転させた~)の表現法は、次の(3)項[7・09,c]の改正文との整合性を保つために行われたことを付け加えておきます。
7・09(c)の改正
当項の条文改正の理由は、前項(2)で記述した通りです。そこでここでは、この規則をプレイに適用するための具体的な解釈について記しておきます。
前項(2)[6・05、i]のプレイに対する適用の解釈はまったく問題なく理解されると思います。それは「ファウルボールの進路を打者走者が故意に狂わせた場合」に適用されるものだからです。つまり、このようなプレイが行われたら、「直ちにボールデッドとして打者走者にアウトを宣告、塁上に他の走者がいたときは、その走者を投手の投球当時の占有塁に帰らせる」処置をとればよいからです。すなわち、ルールの適用法はこのように一本化されているからです。
しかし、当項(3)項[7.09、c]になると、そういうわけにはいかなくなります。それは、妨害した攻撃側プレイヤーに、打者のみならず走者も含まれるからです。この場合の走者とは、「三・本間を走っている走者がファウルボールの進路を故意に狂わせた場合」のみに限られることは容易に理解されるところですが、そのために、妨害したときのプレイの状況によっては、規則書の他の条文解釈との関連において、打者に対するルールの適用をも併せ考えなければならないときが生じてくるからです。そこで次に、この規則を適用するための基本的な解釈を列記します。まれにしか起こらないプレイと考えられますが、どうかしっかりと理解しておいてください。
①.打者のボールカウントはストライクにカウントする。(2ストライク以前)
②.確実に併殺プレイが完成すると審判員が判断した打球(インフライト)を妨害した場合は、打者と走者の二人にアウトを宣合する。(二死以前)
③.打者のボールカウントが2ストライク以後にスクイズプレイやバントが行われ、その打球を妨害した場合は打者と走者の二人にアウトを宣告する。(二死以前)
④.二死以後に妨害が発生した場合は、ボールカウントに関係なく打者にアウトを宣告する。
8・05ペナルティ【注一】の一部追加
この改正は、昨年度(1999年)発表した改正規則の第7番目の改正項目を全面的に取り消し、一昨年度(1998年)の規則書に掲載されていた【注一】(1959年度より挿入)の条文を復活するために行われたものです。言わば、規則を元に戻すために行われたもので、率直なところ、昨年度の発表は委員会の勇み足であったわけです。委員の一人としてすべての野球人・関係各位に心からおわび申し上げる次第です。
実は、この【注一】四行目の削除文については、昨年の改正事項確認作業の時点ですでに大変な難題を抱えていることに気づいていたのです。それは、この改正に関連する規則書の条文(6・08~c、7・04~d、7・07)との整合性を保つ問題点が浮き彫りにされていたからです。そこで委員会としては、その問題点を昨年度(1999年)中に、解釈が連動する条文に再調整する作業を行わねばなりませんでした。
しかし、その作業の過程でさらなる難題にぶつかってしまったのです。それは、ここで言う「その他のプレイ」とは何を指しているのか、規則書の他の条文(4・09~b、6・07~b~2、6・08-c)にみられる「その他のプレイ」との関連と理解はどうあるべきか、また、「べ一スボールにおけるアドバンテージルール」というものをどう理解すべきなのか、さらに、我が国の委員会の先人たちが、なぜ「打撃妨害を含まない」という規則を昨年まで約40年間(1957年~、58年は除く)の長きにわたって【注】として挿入してきたのか、等々の問題でした。
そこで委員会としては、今後これらの難問に答えを出すには、原文研究を含めた米国規則委員会への積極的な意見交換要請をしながら、時間をかけての慎重な研究・調査・審議が必要であるとの結論を引き出し、これらを継続研究課題と定めました。
確かに昨年の改正で、規則の適用が複雑化され、同じ状況下でのプレイの結果によっては複数の適用法が成立することになってしまい、現場が混乱する可能性が出てくることが危惧され、委員会としては薄氷を踏む思いの一年間でしたので、恥を忍んでと言おうか、勇気を持ってと言おうか、いずれにしても以前の解釈(規則)に戻したことは、現時点では最善の策であったと信じております。幸い、昨年一年間の間にプロ・アマを通じでのさまざまな試合において、「ボークの後に打撃妨害が成立した」というプレイが出現したという報告が委員会に届いておりませんので、胸をなで下ろしている次第です。そこで、改めて本年度の当改正(復活)規則(1998年以前の規則)の適用法を以下に記しておきます。
①. ボーク後にプレイが続いてしまって打撃妨害のプレイが出現した場合は、ボークを最優先(打撃妨害のプレイを取り消す)でボールデッドとし、塁上の走者を一つ先の塁へ進め試合を再開させる(このときの投球はカウントせず、打者は打撃を継続する)。
②. ①の冒頭の下線部分に記したプレイが行われたにもかかわらず、規則6・08(c)項四行目「ただし、……」以下に該当するプレイが出現し、打者走者を含む塁上のすべての走者が少なくとも一個の塁を進んだときは、プレイはボークとは関係なく続けられる(インプレイ)。
以上で、2000年度発表の改正規則4項目に関する解説を終わります。