【2004年規則改正】
日本野球規則委員会(以下、「規則委員会」という)では、規則適用上の解釈を日本独自のものから国際標準、つまりグローバルスタンダードに合わせていくことが必要であるとの認識の下、また、わが国のプロ野球とアマチュア野球との間に見られる違いも統一すべきとの認識の下、米大リーグのアンパイアマニュアル等を調べこの一年間、その違いを浮き彫りにして、整合性を図るべく作業を進めてきました。 そして、規則委員会は、去る2月3日、下記4項目を本年度の改正規則として発表しました。
(1)球審の妨害 5.09(b)[注一]の削除
(2)打球が鳥に触れた場合 7.05(a) [注一]の改正
(3)盗塁行為のなかった走者 7.07[注二]の改正
(4)打者走者の逆走 7.08 (i)[注]の改正
久し振りのプレイに関する規則改正となりました。特に、規則7.07[注二]の改正は、わが国の野球規則委員会における、長年の論争に終止符を打つ画期的な改正だといえます。
(1)球審の妨害 5.09(b)[注一]の削除
球審の妨害に関する規定です。捕手の、投手への返球を球審が妨害した場合、ボールデッドとするのか、あるいはインプレイで成り行きかといった疑問がありました。現行規則5.09(b)[注一]は、次のとおりとなっています。
(b)球審が捕手の送球動作を妨害(インターフェア)した場合―――各走者は戻る。
[注一]本項での“捕手の送球動作“とは、盗塁を阻止しようとするか、塁上の走者をアウトにしようとする捕手の送球動作に限られる。
ここで、あらためて疑問が生じます。なぜ「捕手の送球動作」を、捕手の走者に対する刺殺を目的とした送球行為に限定したのでしょうか。
これまでの変遷をひも解いてみると、「打者の後方に位置している審判員の身体または着衣が送球しようとしている捕手を妨害した場合―――走者はアウトにされるおそれがなく、もとの塁にもどらねばならない」(1949年)、その後ルールブックが現在の形に改められ、「本塁後方にいる審判員が、捕手が送球しようとするのを妨害した場合―――各走者は帰塁する」と変更になり、1951年、“用語の定義”(2.00)に次の項目が追加されました。「審判員の妨害とは、盗塁しようとしている走者をアウトにしようとする捕手の送球を、審判員が妨げた場合、または・・・・・」。1953年には、さらにこれが次のように書き換えられました。「審判員の妨害――盗塁している走者をアウトにしようとする捕手の送球動作を、審判員がじゃましたり、阻んだり、妨げた場合、または・・・・・」、そして、1961年には、5.09(b)が、「球審が捕手の盗塁を阻止しようとする送球動作を妨害した場合――各走者はもどる」と改められ、“用語の定義”とプレイングルールの双方で、捕手の送球動作とは、「盗塁を阻止しようとする」場合だけに限定されることが明確になりました。
しかし、その後、捕手のピックオフプレイを球審が妨げた場合、どう処置するのかといった混乱が生じ、1971年には“用語の定義”からも、5.09(b)からも「盗塁を阻止しようとする」という字句が削除されたとのことです。
規則委員会では、この米国規則委員会の処置を、盗塁阻止に限定していたのを、拡大して「塁上の走者をアウトにしようとする送球」も含むことにしたのだと解釈して、1975年にわが国[注]として追加した経緯があります。
今回の改正は、”catcher’s throw“(捕手の送球動作)を、走者に対する刺殺だけに限定する理由は見当たらない。もともとこの規定の趣旨は、球審の妨害によって発生した、守備側の不利益を取り除いてやるというもののはずだから、捕手の投手への返球動作を球審が妨害した場合も含めるのが適切ではなかろうかとの判断に基づくものです。
したがって、[注一]を削除して、“捕手の送球動作”を限定しないということは、5.09(b)の“捕手の送球動作”には、盗塁を阻止する動作、塁上の走者をアウトにしようとする動作、投手への返球動作等、広く含まれる(ただし打球処理を除く)ことになりました。
(2)打球が鳥に触れた場合 7.05(a) [注一]の改正
打球が鳥に触れた場合の規定です。現行7.05は、次のとおりとなっています。
7.05 次の場合、各走者(打者走者を含む)は、アウトにされるおそれなく進塁することができる。
(a)省略 [注一]フェアの打球がインフライトの状態で、明らかにプレイングフィールドの外へ出ただろうと審判員が判断したとき、観衆や鳥などに触れた場合には、本塁が与えられる。インフライトのフェアの打球または送球が、鳥に触れた場合は、ボールインプレイであるが、インフライトの状態でなくなる。また ……(略)
上記のとおり、「打球が鳥に触れた場合、ボールインプレイであるが、インフライトの状態でなくなる」とあります。つまり、鳥に触れた後は、ゴロと同じで、地面に触れる前に捕ってもアウトにならないということです。
しかし、米大リーグ・アンパイアマニュアルによると、「打球が飛んでいる鳥に触れた場合、ボールインプレイであり、そのボールが鳥に触れなかったときと同等にみなす」とあり、わが国でも、米大リーグの解釈を採用し、上記[注一]の下線部分を次のとおり改正することにしました。
送球またはインフライトの打球が、鳥に触れた場合は、ボールインプレイであり、インフライトの状態は続く。 しかし、プレイングフィールド上の鳥または動物に触れた場合は、ボールインプレイであるが、インフライトの状態でなくなる。また・・・・・以下同じ
送球、打球、投球が鳥に触れた場合、それぞれどうなるのか、また、飛んでいる鳥に当たった場合、グラウンド上の鳥、または犬などに当たった場合はどうするのか、今回の改正条文では分かりやすく表現しました。
ここですでにお気付きの読者もおられるかと思いますが、この解釈は東京ドーム等の特別ルールと同じ扱いとなり、打球が飛んでいる鳥に触れた後、野手が地面に落ちる前に捕ればアウト、また、ボールインプレイであるから、鳥に触れて地面に落ちた後の打球の状況で、フェアにもなり、ファウルにもなります。
では、投球が鳥に触れた場合の処置はどうなるのでしょうか。滅多にないことですが、その滅多にないことが昨年、米大リーグで、起こりました。あの三振奪取で有名な、ランディ・ジョンソンの投球がなんと飛んできた鳥を直撃したのです。この場合は、[注一]に記載のとおり、ボールデッドとし、ノーカウントになります。念のため。
(3)盗塁行為のなかった走者 7.07[注二]の改正
規則7.07の規定をまず見てください。
7.07 三塁走者が、スクイズプレイまたは盗塁によって得点しようと試みた場合、捕手またはその他の野手がボールを持たないで、本塁の上またはその前方に出るか、あるいは打者または打者のバットに触れたときには、投手にボークを課して、打者はインターフェアによって一塁が与えられる。このさいはボールデッドとなる。
1点が欲しいときに三塁走者がホームスチールを敢行、それに気付いた捕手が本塁の前に飛び出して投球を捕って走者にタッグ……試合でよく見られるプレイです。
ここで問題になるのが、打撃妨害とボークとが同時に起きるのか、ということです。長年にわたって先輩たちが大論争を繰り広げてきました。なぜ、ボークという言葉をここで使っているのだろうか。ここでいうボークは、投手が反則を犯した場合に課せられるボークとは違うのか、あるいは同じなのか。
規則7.04(d)には、走者が盗塁を企てたとき、打撃妨害があれば、その走者の進塁を認めるとあり、三塁走者に本塁を与えるのに、わざわざボークを課す必要はないにもかかわらず、ボークという言葉を使ったがために大混乱が生じたわけです。
1976年には、規則6.08(C)の[原注]に、「走者三塁で盗塁かスクイズのとき捕手の打撃妨害があった場合、進塁を企てていなかった走者および塁を押し出されない走者とは、もとの塁にとどまる」が追加されました。このことから、7.07のボークは、三塁走者に本塁を与えるためで、投手が反則を犯したときのボークとは違うのだ、このボークは便宜上の言葉にすぎないとの解釈が、わが国では長い間とられてきました。
したがって、三塁走者は普通のボークで進塁が許されるのではないから、他の走者も盗塁を企てているか、あるいは、打者に一塁が与えられたために塁を明け渡さなければならなくなった場合だけ、進塁が許されることになりました。
以上のような解釈の下、1977年に、有名な「本来、打撃妨害とボークとが同時に起こることもなく・・・…」で始まる[注二]が日本[注]として加えられることになったわけです。
しかし、先輩たちの検討に検討を重ねた結果の[注二]ではありますが、国際大会や大リ一グでは違った解釈をしているのでは、との疑問が近年寄せられ、規則委員会でも研究課題として調査を進めてきました。
昨年、米大リーグのアンパイアマニュアルの中に、このケースで「すべての走者はボークで一個の塁を進塁できる」と明記されているのが確認できました。規則委員会では、このように解釈するのが自然だし、7.07は“特則”なんだと考えたほうがわかりやすいのではなかろうかとの意見で一致し、長年の疑問に終止符を打ち、思い切って[注二]を改正することにしました。
改正条文については、先輩たちのご苦労に敬意を表し、「本来、打撃妨害とボークが同時に起こることもなく、また捕手がボールを持たないで本塁の上またはその前方に出たためにボークとなる条項がないにもかかわらず、本項で“ボーク”の文字が使用されているのは、本項のようなケースに対する特則が設けられたと考え、したがって、すべての走者は、盗塁行為の有無に関係なく、ボークによって一個の塁を進塁できる」として、これまでの条文と連続性を持たせてはどうかとの案もありましたが、すっきりとシンプルに「すべての走者は、盗塁行為の有無に関係なく、ボークによって一個の塁が与えられる」としました。
この改正で処置が違ってくるのは、走者二、三塁のケースでの、二塁走者に対してです。例えば、走者二、三塁で、三塁走者が盗塁によって得点しようとしたとき、球を持たない捕手が本塁前方に出た。二塁走者は三塁への盗塁のスタートをしていなかった。
これまでの解釈は、打者を打撃妨害で一塁へ進め、三塁走者には得点を認め、(盗塁行為のなかった)二塁走者は二塁にとどまる、しかし、改正後は、打者、三塁走者の処置はこれまでと同じだが、(盗塁行為のなかった)二塁走者もボークで三塁が与えられると変わります。走者一塁、一、三塁、満塁のときは、打者に一塁が与えられることで一塁走者は押し出されるので、今回の改正は問題になりません(ちなみに、この場合の一塁走者は、記録上ではボークによる進塁とはなりません)。
(4)打者走者の逆走 7.08 (i)[注]の改正
例えば、一ゴロを打った打者が一塁手の触球を避けようとして、逆走することはさしつかえないけれど、“本塁を越えると規則違反になる”というのを、“本塁に達するとアウトになる”と平易な表現に改めました。
以上4点が、プレイに関する改正ですが、規則適用上の解釈についても、今年度はいくつか変更、あるいは確認が規則委員会でなされましたのでお知らせします。
【規則適用上の解釈】
(1)「プレイの企て」「プレイの介在」
関連規則:2.44 妨害発生の際
7.05(g) 内野手が悪送球した際の進塁基準
7.10 アピール権消滅の時期との関連
- 偽投、送球するマネはプレイの企て、プレイの介在には含まない
内野手が走者をアウトにするため送球しようとして止め(偽投)、あるいは送球するマネを行った場合、昨年までは「プレイの介在」としていましたが、米大リーグマニュアルにならい、偽投、または送球するマネは「プレイの企て」、「プレイの介在」には含まないと解釈を統一することにしました。
(2.44、7.05(g))。
つまり、「プレイの企て」、「プレイの介在」でいう「プレイ」とは、「守備側の野手が、ボールを保持して走者をアウトにしようと実際に行った行為」をいいます。
例えば、走者三塁でスクイズ、投前バントを投手が捕って本塁ヘトスしようとしたが、間に合わないとみて、トスせずに一塁へ送球した。この場合、トスするマネは、従来は「プレイの介在」としていましたが、今年からは「プレイの介在」とは見ないことに改めました。
したがって、このケースでトスするマネはプレイの介在ではなくなったことから、「原注」のとおり、打者走者が一塁に到達しないうちに妨害が発生したときは、すべての走者は投手の投球当時占有していた塁に戻らねばならないので、本塁でセーフとなっていた三塁走者も、三塁へ戻ることになります(2.44(a)[原注][注])。
なお、前述のとおり、“走者をアウトにしようとする守備行為”とは、野手が“実際に”プレイを行ったこと(送球行為、触球行為、触塁行為)と解釈します。
ここで問題となったのが、打球処理に伴う「プレイの企て」、「プレイの介在」と、7.10のアピール権の消滅となる「プレイを企て」とは同じ解釈でよいのかということです。
プロ側は、7.10も含め、すべて同等に適用するとの解釈ととることにしましたが、アマ側はアピールのケースだけは違うのではないかとの疑義を持ち、7.10(アピール権の消滅の時期)については現行どおりの解釈とし、今後の研究課題としました。
・内野手が打球をはじいた場合
進塁の基準となる、打球処理直後の内野手の“最初のプレイ”の解釈については、例えば打球を胸に当てて前に落としてすぐ拾って送球した場合、従来、アマと大リーグはそれも“最初のプレイ”と取り扱ってきましたが、プロはジャッグルも含め、このケースも“その他のプレイ”としていました(参考1)。
これを、今年度からプロもアマも打球をはじいた場合は、“最初のプレイ”とすることで統一しました。ただし、打球を前または横にはじいてすぐ拾った範囲とは、審判員の判断ですが、内野手がワンステップ(内野手の“リーチ”の範囲内)の範囲内でのプレイをいいます。
(2)打者のバットがスイングの余勢または振りもどしによって捕手に触れた場合(6.06(c)[原注])
打者が空振りし、自然の打撃動作によるスイングの余勢か振りもどしのとき、その所持するバットが、捕手がまだ確捕しない投球に触れるか、または捕手に触れたために、捕手が確捕できなかったと審判員が判断した場合のケースに、捕手が送球しようとしたときに捕手に触れた場合はどうなるのか、もう一つはっきりしていませんでしたが、今回、打者のバットが捕手に触れ、捕手がその後の行動をすることができなかったときは、打者の行為が故意でない限り、すべて同等の扱いとし、打者はストライク(ペナルティなし)、ボールデッド、すべての走者は帰塁すると解釈することにしました。
(3)オブストラクション(7.06)
例えば、打者が一、二塁間にヒットを打ったが、前進守備をしていた右翼手が打球を捕って一塁に送球(いわゆる“ライトゴロ”)した。このとき打者走者は一塁に到達する前に一塁のカバーに向かっていた投手とぶつかってしまい、一塁でアウトになってしまった。さて、この場合、(a)項でしょうか。それとも(b)項が適用されるのでしょうか。
一塁へ到達する前だから、当然(a)項なのか、あるいは内野ゴロのケースとは違うから(b)項ではないかと二つの解釈ができます。しかし、実際のプレイでは、内野ゴロの場合は(a)項、外野へ打球が飛んだ場合は(b)項で処理してきたと思いますが、打球が外野へ飛んで打者走者が一塁に触れる前にオブストラクションが発生した場合、外野手から直接打者走者に対する刺殺行為があったようなケースは(a)項扱いをすると再確認をしました。
もう一つ、オブストラクションに関してですが、例えばタックアップの際、野手が捕球をする外野手と走者との間に立ちはだかり、故意に走者の視界を遮ったり、あるいは走者一塁のケースで一塁手が故意に走者の前に立ち、投手板の投手への視界を遮ったりする行為は、いずれもアンフェアな行為ですから、オプストラクションの対象とします。(b)項
オブストラクションの3点めですが、打者走者が本、一塁間で逆走中にオブストラクションが発生したケースです。特に、これまで明確な取り決めはありませんが、打者走者が本塁へ向かって逆走しているときに発生したオブストラクションは、守備側の行為が、故意でない限り、ボールインプレイとすることで確認ができました。
(4)走者のいない塁への送球とアピールプレイ(8.05(d))
投手板に触れている投手が、アピールするためであれば、走者のいない塁に送球してもボークではない。投手はアピールプレイのために投手板をはずす必要はないことが確認されました。本件については、以前ボークとなる旨の解説がされていたことから、あらためて確認がなされたものです。
以上で今年度の規則改正に関する説明を終わりますが、この一年間の規則委員会の活動は久方ぶりに充実し、もりだくさんのテーマに精力的に取り組み、ここにまだご紹介できない、今後に残された研究課題も数多くあります。望ましいことに、わが国のプロ・アマの雪解けは急速に進んできておりますが、野球は一つとの考えに立ち、規則・審判員の世界はこの流れに先行するとともに、今後とも世界基準を視野に入れて、正しい野球の理解に向けて努力を続けていきたいと考えています。
参考1 従来の“最初のプレイ”
プロ | アマ | 大リーグ | |
①内野手がゴロを前にはじくもすぐ拾って送球した場合 | その他のプレイ
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最初のプレイ
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最初のプレイ
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②同上で横にはじいた場合 | その他のプレイ
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その他のプレイ | リーチの範囲内なら最初のプレイ |
③内野手がゴロをジャッグルして送球した場合 | その他のプレイ
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最初のプレイ
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最初のプレイ |