2005年度改正規則解説

<改正理由と適用上の解釈について 日本野球規則委員会委員 麻生紘二>

■ 改正規則4項目を発表

日本野球規則委員会は、去る2月3日、改正規則を発表しました。昨年度は国際標準との違い、プロ・アマ間の違いに焦点を当てて大幅な改正ならびに解釈の統一を実現しましたが、今年度は以下の通り大きな規則改正はなく、用具に関する改正が1、プレイに関する改正が2、記録に関する改正が1の計4項目に留まりました

(1)着色バットの変更  1.10(d)に[注]を追加
(2)打球が鳥に触れた場合 7.05(a)[注一]の修正
(3)ボールデッド中の塁の踏み直し 7.10(b)[付記]に[注四]を追加
(4)タイの記録の変更 10.19注の削除

 では、以下に改正理由と適用上の解釈についての解説をしていきます。

1.10(d)[注]を追加

従来、着色バットはプロ・アマとも、バットの素材そのものの色、ダークブラウン、赤褐色および淡黄色の4色が認められていましたが、昨シーズン、プロ野球で鮮やかな黄色のバットを使用した選手がおり、即使用を停止させた事件がありました。これは認可した色からは大きく逸脱しており、今後も同様なケースが発生することを危ぐしたプロ野球では、内規を改定し、淡黄色を禁止し、その代わり米・大リーグに合わせ、今年度から黒色(ブラック)を追加、これに伴い、「我が国のプロ野球では、着色バットの色については別に定める規定に従う」との[注]を追加したものです。ちなみに、我が国のプロ野球では、「プロ野球選手用バットの製造業者に関する規則」(1981年発効)を定め、選手の使用するバットは、コミッショナー公認印のあるバットのみが使用可能で、これに違反して実際に打撃行為を行った選手はアウト、即退場となっています。

アマチュア野球でも、プロ野球に合わせ、今年度からブラックも認めることにしました。ただし、淡黄色については従来通り使用可とし、アマチュア野球はブラックを加え、5色の着色バットが使えることになります。

なお、着色バットの運用基準である次の3条件は、プロ・アマとも変更はありません。

①木目が視認できること
②認可された色に限ること
③塗料の色がバットに付着するような粗悪な塗装でないこと

7.05(a)[注一]の修正

昨年、「打球が飛んでいる鳥に触れた場合、ボールインプレイであり、そのボールが鳥に触れなかったときと同等にみなす」との米・大リーグの解釈を採用し、[注一]の一部を、次のように改正しました。

「送球またはインフライトの打球が、鳥に触れた場合は、ボールインプレイであり、インフライトの状態は続く。しかし、プレイングフィールド上の鳥または動物に触れた場合は、ボールインプレイであるが、インフライトの状態ではなくなる。また、・・・・・・」

この改正で、飛んでいる鳥に当たった場合、地上にいる鳥に当たった場合との区別がより明確になったと思っていましたが、“プレイングフィールド上”との表現だけでは地面なのか上方も含むのかはっきりしないとの問い合わせが寄せられたことから、誤解が生じないよう“地上”を加えて、今年“プレイングフィールド上(地上)”と修正しました。

7.10(b)[付記]に[注四]を追加

[付記]では、塁を空過した走者は、(2)ボールデッドのもとでは、空過した塁の次の塁に達すれば、その空過した塁を踏み直すことは許されない

とありますが、では、我が国では飛球が捕らえられた際、ボールデッド中に、(リタッチが早かったため)リタッチに戻ることができるのかどうかについては、空過した場合と異なり、できるとの解釈をとってきました。

しかし、過去の審議経過、米・大リーグの解釈等を調査した結果、リタッチの場合も、次塁に達してしまえば、ボールデッド中、塁の踏み直しに戻ることはできないとの結論を得て、[注四]として追加明記することにしたものです。

[注四]本項[付記]は、飛球が捕らえられたときのリタッチが早かった走者にも適用される。

また、ボールデッド中の逆走しなければならないときも、規則5.09各項規定のボールデッドの状態でない限り、すべての塁を逆の順序で踏み直さないといけないことがプロ・アマ合同野球規則委員会で確認されました(つまり、ボールデッド中も“三角ベース”は認められないということです。規則7.02参照)。

10.19注の削除

この項目は、記録に関するもので、プロ野球だけに該当し、タイの記録を適用しないアマチュア野球には関係がありません。ちなみに、本注のケースでは、タイの記録はこれまで「最終のアウトをとった投手」に与えられていましたが、「最後の投手」に与えると改正になり、本件はプロ野球だけの問題であることから、規則書から削除したものです。

■規則適用上の解釈の変更

以上4点の規則改正に加え、今年度もいくつかの規則適用上の解釈の変更、または確認が規則委員会でなされましたのでお知らせします。

1、内野手が打球をはじいたときの進塁の基準について…関連条文7.05(9)

これについても、昨年、プロもアマも、内野手が打球をはじいてもすぐ拾えばその後のプレイは“最初のプレイ”とすることで統一しました。しかし、ただし書きが付いており、すなわち、「ただし、“打球を前または横にはじいてすぐ拾えば”とは、審判員の判断だが、内野手がワンステップ(内野手の“リーチ”の範囲内)の範囲内でのプレイをいう。それ以上なら“その他のプレイ”とする」と条件が付いていました。

 

その後、この解釈についてプロ側で米・大リーグの複数の審判員に確認したところ、すべて打球をはじいた範囲に関係なく「最初のプレイ」として取り扱っていることが判明し、プロ側もその解釈に今年変更しました。アマ側も、一方ではワンステップとはどこまでかといったややこしさもあるので、この際、範囲制限を撤廃し、プロ同様、シンプルに、すべて打球をはじいた範囲に関係なく内野手の「最初のプレイ」とすることに変更しました。

2、走者一・三塁でのけん制について…関連条文8.05(c)[原注][注]

走者一・三塁でのけん制のしかたについては、プロ側と取り扱いが異なり、アマ側では次の2点が昨年からの検討課題となっていました。すなわち、

①投手が三塁へ踏み出し、その勢いで一旦投手板から外れた軸足が、一塁へ送球する際、再び投手板の上に落ちた場合の解釈

②三塁への偽投には「腕を振る」ことが必要条件か

ちなみに、プロは、一旦投手板から軸足が離れれば、すでに野手だから再び投手板の上に落ちても構わない、また、三塁への偽投には正しくステップさえすれば腕の振りは必要ないとの解釈をとっています。

検討の結果、アマの規則委員会は、次のような結論を出しました。

 アマは正しい野球を指導していくとの観点に立ち、現行解釈を踏襲する。すなわち、[注]に「……軸足が投手板からはずれた(場所の如何を問わない)場合には、……」とあるが(場所の如何を問わない)とは、“ただし投手板の上を除く”と解釈する。したがって、三塁へ偽投し、その勢いで一旦はずれた軸足が再び投手板の上に落ちれば、“`まだ投手だから”一塁へけん制するには投手板をはずさないといけない。また、偽投には両手を離すか腕の振りが必要である。

■“二段モ-ション”の禁止について

 

投球の際、プロの一部の投手に見られる自由な足をブラブラさせたり、二度三度とことさら段階をつけたりする投法(以下、便宜的に“二段モーション”と呼ぶについては、アマ側は一貫して規則違反だと主張し、プロ側の是正をこれまで何度も要請してきました。

最近は国際大会も増え、また、昨年はアテネオリンピックも開催され、日本の投手の、この“二段モーション”が内外で話題となりました。海外の国際審判員ならびに米・大リーグの審判員は、公然とは違反と指摘しなかったものの、「我が国にはあんな投げ方をする投手はいない」と暗に日本の投手はおかしいと批判しており、国際審判員の間ではフェアではないと大変な顰蹙(ひんしゅく)を買っているのが実態で、中にははっきりと「イリーガルだ」と言っている人もいました。

そもそもこの問題は横浜ベイズターズの三浦投手にさかのぼり、1996年プロ・アマ合同規則委員会ではこの投法は許されるのかを議論し、プロ・アマ一致して「あれは規則違反だ。今後疑わしき投法は厳しく対処していこう」と合意済みであります。ところが、最近はとどまるどころかエスカレートするばかりで、ほぼ全球団に違反がまん延し、その影響がアマにも及んできています。

規則違反を容認するプロ野球、その悪いまねをする青少年野球を憂慮し、昨年12月27日付で日本アマチュア規則委員会はプロあて「投球動作是正のお願い」の文書を提出しました。そして、今年の1月、プロ・アマ合同規則委員会でこの問題を再度取り上げましたが、プロ側は「問題ない」の一点張りで、残念ながら今年も平行線のままで終わってしまいました。規則8.01(b)[原注][注一]は、1974年に改正になり、一部を太字で強調していますが、この文章をプロ側の人はどう解釈するのでしょうか。

あえてここに記載しておきますので、皆さんもよくそしゃくしていただきたいと思います。

本条(a)(b)項でいう“中途で止めたり、変更したり”とはワインドアップポジションおよびセットポジションにおいて、投手が投球動作中に、故意に一時停止したり、投球動作をスムーズに行わずに、ことさらに段階をつけるモーションをしたり、手足をぶらぶらさせて投球することである。

三浦投手、岩隈投手(東北楽天ゴールデンイーグルス)の投法が、この条文に照らし合わせて「まったく問題ない」と言えるでしょうか。筆者にはどう考えても、プロが言っていることは強弁としか思えません。

「病原菌がまん延し過ぎて手をつけられなくなってしまった状態にある」ことはよく理解できますが、かといって規則違反を放置することが許されるはずがなく、一般社会では通用する話ではありません。

プロも、これからは国際大会の機会が増えていくはずです。だれも何とも言わないから違反し続けるのではなく、世界の中でトップグループに位置する日本の野球が国際大会でマナーが悪過ぎると言われないよう、また、それ以上に青少年に与える影響を真摯(しんし)に受け止めて(プロ野球は今こそ意識改革が求められています!)、早期に規則に則った、フェアな野球を実践していただくよう、アマは粘り強くプロ側に要請していこうと考えています。

なお、日本アマチュア野球規則委員会では、この“二段モーション”投法は規則違反であることを徹底するため、あらためて次の通り2月9日付でアマチュア各団体あて“二段モーション”禁止の通知を出しました。

(1)プロの一部の投手に見られる、手足をブラブラさせたり、ことさら段階をつけて投げる動作は、規則8.01の“中途で止めたり、変更したり”に抵触し、正規の投球とはみなさない。(規則8-01(a)(b)[原注][注一])
(2)規則2.38[注]により反則投球となる。
(3)したがって、塁に走者がいるときはボークとなり、いないときはボールを宣告する。

■ 昨年起きた事例についての見解

 

最後に、昨年、実際に試合で起きた事例について、規則委員会の見解を参考までに記しておきます。

(1)まず初めに、夏の甲子園で起きたケースです。

<事例1>一死走者三塁。カウントが1ボール0ストライクのとき、打者がスクイズを試みたが、ファウルチップとなって捕手が確捕。本塁へ走ってきた三塁走者は三本間に挟まれ、タッグアウトになった。その際、打者の右足が打席を踏み出していた。このときの審判の処置は?

<結論>このケースは、スクイズプレイ、反則打球、ファウルチップの三つが重なったケースですが、論点は、

(イ)ファウルチップはストライクであり、ボールインプレイである(規則2.34)から、7.08(g)を適用するのではなく、タッグアウトになった三塁走者のアウトを認め、二死走者なし、カウント1-1で再開、
あるいは、

(ロ)打者が右足を打席から踏み出して打った(バットに当てた)ので、反則打球となり、規則7.08(g)により、三塁走者アウト、二死走者なしカウント1ボール0ストライクで再開、
のいずれを適用するのかということです。

プロ・アマ合同規則委員会での結論は、規則2.34が適用されるのは、打者が打者席内でファウルチップをしたときであり(つまり“正規の打撃行為のときに”ファウルチップは成立する)、打者席外でスイング(バントを含む)し、投球がバットに触れた場合は、ファウルチップを含めすべて6.06(a)に該当し、打者の反則行為となる。したがって、事例のケースについては、規則7.08(g)[注二]を適用するのが妥当である、ということでした。上記(ロ)が正解となります。

(2)次の二つは、進塁の基準に関するものですが、なかなか興味深い事例だと思います。

<事例2>これも甲子園で起きたケースです。打者が二塁ゴロ。二塁手がこれを捕って一塁へ悪送球。この悪送球のボールが一塁カバーに行って、スライディングした捕手の足に当たってカメラマン席に入ってしまった。さて、この処置は?

(イ)規則7.05(h)[付記]を準用して、投球当時の位置を基準に二個、つまり打者走者を二塁に進める

(ロ)規則7.05(g)に基づき、打球処理直後の内野手の最初のプレイの一連の動きと見て、投球当時の位置を基準に二個、つまり打者走者を二塁に進める

(ハ)二塁手からの悪送球が捕手に当たった時点で、ファーストスローではなくなり、「その他のプレイ」となって、投球当時ではなく、捕手に当たったときを基準に二個、つまり捕手に当たったとき一塁に達していた打者走者を三塁に進める

<結論>最後の送球が野手の手を離れたときを基準に、つまり、このケースは打球処理直後の内野手の最初のプレイに基づく悪送球となって、(ロ)が適切な処置となります。

<事例3>これは東京六大学で起きたケースです。走者二塁で打者がセンター前ヒット。二塁走者は本塁へ。センターからの返球を捕球した捕手が二塁からの走者にタッグにいったとき、ボールがミットからはじかれ、そのボールがベンチに入ってしまった。さて、審判員の処置は?

(イ)センターからの返球を捕手が確捕したときに送球は完了しており、また、悪送球にもあたらないので、二塁に達していた打者走者は、捕手がタッグに行ったときを基準に二個の塁が与えられ、打者走者の得点も認められる

(ロ)送球後の一連のプレイで起きたことから、“悪送球”のケースを援用して、野手の手を離れたときを基準にする、つまり、打者走者が一塁に達していれば、野手の手を離れたときを基準に二個だから、三塁まで進める

<結論>このケースも、最後の送球が野手の手を離れたときを基準に、つまり、本塁への送球が中堅手の手を離れたときを基準に二個の塁を与え、打者走者が一塁に達していれば三塁までとなります。正解は(ロ)。