2009年度改正規則解説
-改正理由と適用上の解釈について-
日本野球規則委員会委員 麻生紘二

■規則の改正 は13カ所

日本野球規則委員会は、去る 1月29日、今年度の改正規則を発表しました。 まず、 お断りしなければいけないのが、 2009年度の原文 (Official Baseball Rules) の改正が間に合わず、 1年遅れにせざるを得ず、 今年の改正 は、 原文では昨年すでに 改正済みになっていたものを、 わが国の規則書に反映させたのが主となったということです。

今年は次の通り、 記録に関する規則も含めて13カ所の改正となりました。この中には、 7.07 [注三] の改正、 8.05ペナルティ [注一] の改正ならびにストライクゾーンに関するアマ 内規の廃止など大きな改正が含まれています。

(1) 1.01の修正
(2) 2.46に [注] の追加
(3) 4.05 [原注] の改正
(4) 6.05 (h) [原注] の改正
(5) 7.03 (b) の追加
(6) 7.05 [bcde注] の追加
(7) 7.07 [注三] の改正
(8) 7.09 (e) の改正
(9) 8.05ペナルティ [注一] の末尾、なお以下を削除
(10) 10.01 (a) [注] の追加
(11) 10.20 [注] の削除
(12) [10.22注] の追加
(13) 巻頭6ページ、ストライクゾーンのイラストの変更
では、 以下、プレイに関する規則を中心に、改正理由について解説をしていきます。

■1.01 の修正
野球は、囲いのある競技場で監督が指揮する9人のプレーヤーから成る二つのチームの間で、 一人ないし数人の審判員の権限のもとに本規則に従って行われる競技である。

これまで、規則書の最初の条文である1.01は、「野球は、……一人ないし数人の審判員のもとに、……」とさらっと表現されていましたが、わが国では審判員がなぜか格下に見られる風土があり、 それが審判員に対する暴言、暴力の形で表れてきます。このような審判員に対するリスペクト (敬意) がないのは世界的にも大変恥ずべきことから、試合が始まったら全権が審判員に委ねられているんだよということを強調するために、原文にあるjurisdidonを訳して 「一人ないし数人の審判員の権限のもとに」としたものです。

野球はいうまでもなく、審判員なくしてはゲームは成り立ちません。プレイをする人が選手であり、それを裁いてもらうのが審判員です。審判員はもっと権威を持つと同時に、審判員にはもっと敬意を払うような小さなころからの教育が必要と考えます。すっと読み飛ばされてしまいそうですが、「権限」の2文字を追加したのは、こうした気持ちが込められています。

規則書の9.01には審判員の資格と権限が具体的に、そして9.02には審判員の裁定には異議を唱えることは許されないと記載されています。そこには相互に敬意を払うということが大前提にあります。「野球道」といわれる日本の野球にも本来「礼」の精神があったはずなのですが。

■4.05 [原注] の改正
ここ数年、ほとんどのコーチが片足をボッ クスの外に出したり、ラインをまたいで立ったり、コーチスボッ クスのラインの外側に僅かに出ていることは、 ありふれたことになっているが、コーチは、打球が自分を通過するまでコーチスボックスを出て本塁寄りおよびフェア地域寄りに立っていてはならない。ただし、 (以下略)

2年前、 米・マイナーリーグで三塁ベースコーチが打球に当たって死亡するという痛ましい事件が起きました。これを契機に大リーグも安全対策に乗り出し、ベースコーチのヘルメット着用義務を課し、同時にコーチャーの立つ位置についても制約を設けました。それが今回の改正の発端です。

アマチュア野球では、 試合中コーチャーがボックスを出ていることはほとんどありませんが、安全を第一に、アマチュア野球全体が、今年度から、コーチャーの立つ位置についても注意を払っていくと同時に、 コーチャ一のヘルメッ ト着用を義務付けることにしました。

■6.05(h) [原注] の改正
打撃用ヘルメッ トに、偶然、打球がフェア地域で当たるか、または送球が (以下略)
規則の改正というわけではなく、これま での解釈を規則上明文化したものです。特に説明は要しないと思います。

■7.03(b) の追加
(b) 打者が走者となったために進塁の義務が生じ、二人の走者が後位の走者が進むべき塁に触れている場合には、その塁を占有する権利は後位の走者に与えられているので、前位の走者は触球されるか、野手がボールを保持してその走者が進むべき塁に触れればアウトになる。 (7.O8e参照)

まず、 次の二つのプレイを比較してみてく ださい。

(a) 走者二、 三塁。打者がショートゴロ。 三塁走者は本塁に行こうとしたが途中であきらめ、 三本間でランダウンプレイになった。 この間に二塁走者は三塁まで進んだ。三塁走者はラ ンダウ ンでアウトにならず、 うまく 三塁ベース に戻ることができた。そのため、 三塁ベース上に二人の走者が立ってしまった。

(b) 走者一塁で、 打者が一塁手の後方に小フライ を上げた。 一塁走者は捕られるものと思い、 一塁ベースについていた。 ところが二塁手は落球し、すぐボールを拾って一塁に送球した。一塁ベースには一塁走者と打者走者の二人がついていた。

いずれも実際の試合で起こり得るプレイで、審判講習会でもよく練習するケースです。上記 (a) の場合は、 これまでの7.03 (改正後は (a)項) の規定にある通り、その塁の占有権は前位の走者にあることから、たとえ後位 (この場合は二塁走者)の走者が三塁ベースを踏んでいても、野手にタッグされればアウトになります。

補足をしておきますが、 野手は通常二人の走者にタッグします。するとルールをよく知らない三塁走者が自分がアウトと勘違いしてベースを離れてしまい、そこで再びタッグされると三塁走者もアウト、つまり二人ともアウトになってしまいますので注意してください。よくあるケースです。審判員も二人の走者にタッグがなされた場合、アウトになる走者を指差して「あなたがアウト!」とはっきりと宣告する必要があります。これがあいまいだと前記のようなプレイが発生し、トラブルのもとにもなりかねません。

さて、次に (b) の場合ですが、このプレイ が今回の改正規則に該当します。このプレイも、野手がどう行動するかで走者に対する処置が変わってきます。つまり、一塁手が先にベースを踏んでから一塁走者にタッグしたときは、打者走者が一塁でアウトになるだけで、一塁走者は、先に打者走者がアウトになっているので (フォースアウトの状態は消える)、次塁に進む必要はなくなり、そのまま一塁に残ることができます。

しかし、一塁手が先に一塁走者(ベースを踏んでいると否とを問わず) にタッグしてから、打者走者が一塁に到達する前に一塁ベースを踏めば、二人ともアウトになります。まさに今回の改正で、フォースの状態で進塁を余儀なくされた走者が元の塁に触れたままの場合は、その塁の占有権は後位の走者(この例題の場合は打者走者)にあるということです。

このケースも、これまでの解釈と何ら変わるものではなく、規則書に明記をしただけですが、この際にもう一度、前記の例題の違いをよく復習しておいてください。

■7.05(e)[注1]の改正
[bcde注]野手により、本項の行為がなされた場合の走者の進塁の起点は、野手が

昨年の5月4日の千葉ロッテ-埼玉西武戦で、埼玉西武・栗山(巧)選手が打った打球に、千葉ロッテの一塁手・オーティス選手がミットを投げつけるという珍プレイが起きました。規則上は、7.05(c)項にある通り、野手がグラブを故意に投げて、フェアボールに触れさせた場合、打者には三個の塁が与えられるとあります。この試合でも栗山選手は三塁を得たわけですが、さて、こういう場合、進塁の起点はどこだろう、投球当時か、それとも打球に触れた時点かといった疑問が生じました。そこで、プロ・アマ合同の規則委員会では、MLBのマニュアルも参考にして、打球に触れたときとの統一解釈を確認しました。

そして、打球の場合も送球の場合も、同じ解釈(「触れたとき」)をとることとし、従来の[注]を改正し、[bcde注]としました。これによって、野手がグラブ等を投げつけた場合、次の通り、分かりやすく整理されました。

7.05b,c 打球に触れたときの走者(含む打者走者)の位置を基準に3個の塁
7.05d,e 送球に触れたときの走者(含む打者走者)の位置を基準に2個の塁
7.05j 投球に触れたときの走者(含む打者走者)の位置を基準に1個の塁

■7.07[注三]の改正
本条は、投手の投球が正規、不正規にかかわらず適用される

従来の[注三]は、「本条は投手の正規の投球に基づいたときだけに適用される。しかし、投手の投球が正規の投球でなかったときは、投手にボークが課せられるだけで、打者には一塁が与えられない」となっていました。しかしながら、正規の投球のときは打者には打撃妨害で一塁が与えられるが、不正規の投球のときには与えられないという不合理性があること、並びにボークの球でも以前のように即デッドボールではなく、打者は打てるわけだし、またボーク後にさらに捕手が打者のバットに触れる打撃妨害があれば、理論上は打者も走者も進塁できる状況に置かれることから、他の条文との整合性も考慮して、今回、不正規の投球も含めることに改正しました。

これによって、走者のみならず打者も打撃妨害で一塁が与えられることになり、7.07に関する適用が一本化されました。

もう少し補足しますと、2003年までは、ボークと打撃妨害が同時に起こるものではなく、ここでいうボークは三塁走者に本塁を与えるための便宜上のボークであるとの解釈がとられていましたが、2004年にすべての走者は、盗塁行為の有無に関係なく、ボークによって一個の塁が与えられると改正されています。つまり、「便宜上のボーク」という概念は消え、「普通の」ボークの取り扱いがされるように変わりました。また、不正規の投球のときはボークだけ適用されるというのは、ボーク即ボールデッドという以前の考え方が踏襲されて、そのために従来の[注三]がずっと残されてきましたが、この特例的な考え方は他の条文との整合性からいっても改めるべきとの考えから、今回の改正に至りました。

■7.09(e)の改正
アウトになったばかりの打者または走者、あるいは得点したばかりの走者が、味方の走者に対する野手の次の行動を阻止するか、(以下略)

この改正も実戦において、これまでと何ら変わるものではなく、規則上明記がされたというだけです。

例を挙げましょう。走者二、三塁で、打者がレフト前にヒット。二塁走者も三塁を回って本塁に突っ込んできた。ところが、先に生還していた三塁走者が、走者にスライディングの指示などを与えるため本塁付近にいて、守備側の二塁走者に対する守備の邪魔をしたような場合が、これに当たります。

■8.05ペナルティ[注一]末尾の次の文章を削除
なお、“その他”には捕手またはその他の野手の打撃妨害を含まない。

今回の改正の中で最も大きな改正といえます。なぜかというと、実はこの文章は1999年に一度削除され、翌年にまた復活したという歴史があります。その理由は、削除して「その他」に打撃妨害を含むとしたものの、なぜ先人たちは1957年以降40年にわたって「打撃妨害を含まない」としたのか、また6.08c、7.04d、7.07との整合性が保たれるのかといった疑問が生じたためでした。

しかし、現在は“その他”の解釈は、原則何でもよいに変わってきていること、また前述の通り7.07の本文の解釈も変わり、そして今回7.07[注三]も改正になったこと、および前回問題となった他の条文との整合性についても逆に削除した方が整合性が図れるとの判断ができたことから、長年の研究課題であった「その他に打撃妨害を含むか否か」という問題に決着をつけた次第です。これまで7.07[注三]の存在が最大のネックだったわけですが、それを不正規の投球を含むと変えたことで、いわば障害がなくなり、この“なお、以下”の文章の削除が比較的すんなりとできたと思っています。

■2.74ストライクゾーンの変更

1997年にストライクゾーンの低目が「ひざ頭の上部」から「ひざ頭の下部」に改正になった際、アマチュアは規則の改正に伴う混乱を避けるため、アマ内規を設け、「アマチュア野球では、ストライクゾーンの下限に関してだけ、ボールの全部がひざ頭の下部のラインより上方を通過したものとする。」としてきました。
そのアマ内規ストライクゾーンの変更を、今回思い切って廃止することにしました。その理由は次の通りです。
(1)すでに内規制定以来、10年以上経過していること。(2)野球の一番の根幹であるストライクゾーンについて、プロとアマ、アマと海外とが異なるといったダブル・スタンダードの状態は不自然であること。(3)技術的な面でも、例えば審判用具がチェストになって非常に低目が見やすくなり、以前に比し、著しく低目の判定が向上していること。(4)ストライクゾーンの改正は過去にも何回かあるが、その都度、審判員は的確に対応してきており、十分混乱は回避できる能力があると思うこと。(5)確かに理論上はボール1個分低目に下がるが、しかし、実態はルール通りに近い形で低目は定着してきており、現状通りで対応が可能なこと。(6)さらには、ストライクゾーンが広がったという意識で投手は攻めの投球が、打者は積極的な打撃に変わると期待できることなどから、現行アマ内規①のストライクゾーンの低目に関するアマだけの制限を廃止することにしました。

日本アマチュア野球規則委員会としては、今回のアマ内規廃止を機に、ストライクゾーンの運用について審判員には勇気を持ってルール通りにストライクを取っていくようにと指導し、そしてアマチュアの野球がテンポの良い、攻撃的な野球に発展していくことを願っています。

ベースボールは本来、打って、走るというスポーツであるという原点に戻ることで、多くのファンに感動を与えることができ、さらに支持が得られると確信しています。

■ヘルメットの着用義務
アマチュア野球では、前述した米・マイナーリーグでの三塁ベースコーチが打球に当たって死亡したという事件を教訓にして、選手たちの安全対策から、(1)ベースコーチのヘルメット着用義務、および(2)打者、走者ともに両耳フラップヘルメットの着用義務を今年度から課すことにしました。遵守方よろしくお願いします。

■「ミットを動かすな」キャンペーンの実施
最後に、日本の野球は残念ながらマナーの面で国際的に非常に遅れていると言わざるを得ず、今年度からアマ全体で次のキャンペーンに取り組むことにしました。

昨今、投球を受けた捕手がボールをストライクに見せようとの意図でキャッチャーミットを動かしたり、あるいは球審の“ボール!”の判定に抗議するかのように、しばらくミットをその場に留め置くといった行為が目立ちます。

これらは、いずれも審判員をあざむこうとしたり、審判員を侮蔑したりするアンフェアな行為で、国際的にも大変ひんしゅくを買う、恥ずべきことです。世界の野球のリーダー国たる日本が、いつまでもこんなマナーの低い野球をやっていてはいけないと思います。

よって、アマチュア野球では、マナーアップ、フェアプレイの両面から、以下のような行為を止めさせる運動に着手します。
(1)捕手が投球を受けたときに意図的にボールをストライクに見せようとミットを動かす行為
(2)捕手が自分でストライク・ボールを判断するかのように、球審がコールする前にすぐミットを動かして返球態勢に入る行為(判定は球審の仕事です。球審が正しく判定できるように少しの間捕球した位置にミットを留め置くことが望ましい)
(3)球審のボールの宣告にあたかも抗議するかのように、しばらくミットをその場に置いておく行為

以上で、2009年度の規則改正の解説を終わりますが、今年は2016年にオリンピックの種目として野球が復活できるかどうかの大変重要な年に当たります。ぜひマナーの良い、テンポの良い、攻撃的な野球を展開し、多くの人に感動を与え、多くの人に見ていて面白いと言われるような野球に変貌していくことを期待しています。