プロアマ合同の日本野球規則委員会は、2023年1月27日に今年度の公認野球規則
の改正を発表しました。
 今回は、先発投手に限って指名打者としても兼務が可能となった指名打者ルール
(いわゆる“大谷ルール”)の追加、天候状態によるサスペンデッドゲームの適用基
準の拡大など、3項目の改正が行われました。

(1) 5.11指名打者ルールに関する改正
 5.11 を次のように改める 
 ①本文「リーグは、指名打者ルールを使用することができる。」を削除する。
 ②(b)を次のように改める。
  チームは投手に代わる打者を指名する義務はない。しかしながら、先発投手自身    
 が打つ場合には、本条(a)項により、別々の2人として考えることができる。監督は  
 自分のチームの打順表に10人のプレーヤーを記載し、このプレーヤーにおいて、一
 つは先発投手、もう一つは指名打者として2度、同じ名前を記載することになる。
  もしこのプレーヤーが投手を退いたとしても、指名打者としては出場し続けるこ
 とはできるが、再び投手として出場することはできない。また、このプレーヤーが
 指名打者を退けば、投手として出場し続けることはできるが、再び打者として打席
 に立つことはできない。’
  このプレーヤーが投手と指名打者の両方を同時に退くことになった場合、それに
 置き換わる投手と指名打者両方の役割を満たす他のプレーヤーに代わることはでき
 ない。チームにおいて、先発投手自身が指名打者としても打つことができる本規定
 を採用するかは、最初の打順表で記載するときにのみできる。
  本条(a)項にもかかわらず、その投手が指名打者として打つかまたは走者になっ
 たとしても、チームに対する指名打者の役割は消滅しない。また、その指名打者が
 投手の役割を引き受けた場合においても、その役割は消滅しない。しかし、そのプ
 レーヤーが投手として降板し、投手以外の守備位置に移った場合には、それ以後指
 名打者の役割は消滅する。
 ③【注1】および【注2】を削除し、【5.11注】を追加する。
 【5.11 注】我が国では、指名打者ルールについては、所属する団体の規定に従う。

【解説】
規則5.11は、(a)項と(b)項とで構成されていて、
(a)項は指名打者ルールの内容及び運用方法が、(b)項は指名打者ルールを使用して
いるリーグと使用していないリーグとが試合を行う際の対処方法が、それぞれ記述さ
れていました。今年度の改正では、従来の(b)項の内容が削除され、新たに全く別の
ルールが加えられました。

 まず、上記①の改正についてですが、すでに規則5.11は指名打者ルールに関する内
容である旨は十分に理解されており、Official Baseball Rules (オフイシャル・ベース
ボール・ルールズ。以下、OBR)にも書かれていないことから、この一文が削除され
ました。
 次に、上記②の解説をする前に、もともと(b)項に記載されていた内容と削除された
理由、および③の改正について解説します。
改正前の(b)項は次のように書かれていました。
(b)指名打者ルールを使用しているリーグに所属するチームと、これを使用していな
いリーグに所属するチームとが試合を行うときには、これを使用するかどうかは次の
定めによる。
(1)ワールドシリーズまたは非公式試合では、ホームチームがこれを使用していると
きには、使用する。ホームチームがこれを使用していないときには、使用しない。
(2)オールスターゲームでは、両チームと両リーグが同意したときだけ、使用する。
【注1】我が国のプロ野球では、(b)項(1)におけるワールドシリーズを日本シリー
   ズと置きかえて適用する。なお、非公式試合において、(b)項(1)により指名  
   打者ルールを使用しない試合でも、両チーム監督の合意があれば、指名打者ル  
   ールを使用することができる。
【注2】アマチュア野球では、指名打者ルールについては、各連盟の規定を適用す
   る。
 これまでの5.11(b)の内容が削除された理由として、メジャーリーグではアメリカ
ン・リーグだけが指名打者ルールを使用していましたが、ナショナル・リーグも同
ルールを正式に使用することとなったため、もはやこの規定が必要なくなったという
ことが考えられます。これに合わせ日本においても、【注1】ではプロ野球について、
【注2】ではアマチュア野球について、それぞれ指名打者ルールの使用に関する取り
扱いを規定していましたが、プロ野球およびアマチュア野球を問わずに『所属する団
体の規定に従う』こととして、一つの【注】にまとめました。なお、③の改正により
【5.11 注】としたのは、(a)項と新しい内容となる(b)項の両方の内容に関する注釈としたからです。

 さて、②の改正内容の本題に入りましょう。(b)項に新たに加わった内容が、上記
(1)②になります。メジャーリーグで“大谷ルール”と呼ばれていたものが、これにあ
たります。試合前に行う両チームのメンバー交換の際、先発投手に限って、『投手』
と『指名打者』の双方に同じ者が記載でき、それぞれの役割を果たせる規則となって
います。つまり、これまでは投手も打者として兼務させるのであれば、指名打者ルー
ルは使用できませんでした。しかし、この改正によって、たとえ、先発投手が途中で
投手の立場を退いたとしても、引き続き指名打者として打席に立つことが可能となり
ました。もちろん、その逆(途中で指名打者の立場を退いたとしても、引き続き投手
として投球すること)も可能です。ただし、それぞれの立場で一度退いた場合におい
ては、再びその立場での役割を果たすことはできません。また、同時にそれぞれの役
割を退く場合においても、それに代わる投手および指名打者に同じ者が入ることも認
められません。
指名打者と兼務している投手が投手以外の野手の守備についた場合も、その時点で
指名打者としての役割は消滅することになり、新たに登板する投手は打順表の中に入
る必要があります。
なお、規則5.11に“指名打者の役割は消滅する”と書かれていますが、これは、
“指名打者の役割が消滅した”場合、それ以後の選手の交代や打撃順の指名について
は、指名打者ルールを使用していないときと同じように進めていくということです。

(2) 7.01(e)正式試合とならない“ノーゲーム”に関する改正
7.01(e)を次のように改める。(下線部を追加)
正式試合となる前に、球審が試合の打ち切りを命じた場合には、“ノーゲーム”を
宣告しなければならない(7.02(a) (3) ~ (5)に従い、サスペンデッドゲームが宣告される場合を除く)。異常事態によって試合を打ち切らなければならない場合には、リーグ会長の判断でサスペンデッドゲームとする。
【解説】
この改正は、下記(3)の改正と連動した内容となっています。
正式試合となる前に打ち切られた試合は「ノーゲーム」となり(7.01 (e))、初めから
やり直すことになります。しかし、照明等の故障(7.02 (a) (3))、暗転等((4))で打ち切られた場合は、行われた回数に関係なく 『ノーゲーム』とはせずに『サスペン
デッドゲーム(一時停止試合)』とすることができる「除外項目」として書かれていま
す。他方、改正前の同(5)項は、天候状態により打ち切られた場合、正式試合になっ
た後の一定の条件のもとでサスペンデッドゲームとすることができるとなっていまし
た。この同(5)項の内容が正式試合になる前でもサスペンデッドゲームにできると改
正されたので、「7.02 (a) (3) ~ (5)に従い、サスペンデッドゲームが宣告される場合を除く」という文が追加されました。
 なお、サスペンデッドゲームについても、所属する団体の規定に従うことになって
います(7.02 (c)【注】)。

(3) 7.02 (a)天候状態によるサスペンデッドゲームに関する改正
7.02 (a)を次のように改める。
①(5)を次のように改める。(下線部を追加)
天候状態のために、正式試合となる前に打ち切りを命じられた場合、または正式試
合のある回の途中でコールドゲームが宣せられた試合で、打ち切られた回の表にビジ
ティングチームがリードを奪う得点を記録したが、ホームチームがリードを奪い返す
ことができなかった場合。
②【付記】を削除し、その直前の2つの段落を次のように改める。(下線部を改正)
リーグ会長による指示がない限りは、本項の(1)(2)(6)によって終了となった試合に
ついては、7.01(c)の規定による正式な試合となりうる回数が行なわれていない限
りこれをサスペンデッドゲームとすることはできない。
本項の(3)~(5)の理由で打ち切りが命じられたときは、行なわれた回数には関係な
く、これをサスペンデッドゲームとすることができる。

【解説】
この改正は、サスペンデッドゲームの条件のうち、『天候状態』の理由によって、
試合を打ち切った場合の適用範囲を拡げるために上記本文①の下線部を追加したもの
です。すなわち、正式試合となる前の段階で雨が急に激しくなって、試合の進行が困
難であると判断し、球審が試合を打ち切って中断させたような場合が本文①に該当す
るケースの一つかと思います。上記(2) (7.01(e)の改正)の解説でもあったように、こ
の場合で結果的にこの試合が再開不可能と判断された際には、正式試合となる前であ
れば、イニングや両チームの得点、得点経過に関係なく、サスペンデッドゲームとす
ることができるようになりました。
また、上記②の【付記】を削除した理由については、【付記】の本文にも記述され
ているように、従来の規定では、試合を打ち切る原因となった事象と、打ち切った後
にまた他の事象が発生した場合、この2つの事象がサスペンデッドゲームとすること
ができるか否かで異なったときの取り扱いを明文化したものかと思われますが、同①
の改正によって、いずれの事象においてもサスペンデッドゲームとすることができる
ようになったため、この記述が必要なくなったものと考えられます。

(4)『軸足の踵を上げてから塁に送球する動作』について
走者がいるとき、セットポジションをとった(投手板に軸足を並行に触れ、他の足
を投手板の前方に置き、ボールを両手で身体の前方に保持して、完全に動作を静止し
た)投手がまず、軸足の踵を上げてから塁に送球した場合、打者への投球動作を変更
したものとみなし、ボークとする。(規則6.02 (a)(1)、5.07 (a) (2)、同【原注】及び【注1】)
【解説】
これは、規則改正ではありませんが、2023年2月8日に開催されたアマチュア野球規則委員会において確認された事項です。
セットポジションをとった投手が、最初に軸足の踵を上げる動作は『投球動作の開
始』とみなされ、この動作から走者のいる塁へ送球すれば、投球動作を『変更』した
ことになるから、ボークが宣告されるとしたものです。
以上、2023年度の改正規則等の要点を解説しました。

くり返しになりますが、今回の規則改正は、いずれも『各所属団体の規定に従う』
こととなっています。運用における取り扱いには、くれぐれもご留意ください。