【1993年】(新は 2016年以降の項目番号)

去る2月5日、日本野球規則委員会は、本年度の改正規則三項目を下記の通り発表しました。

(1)規則2.44(a)〔注〕(新6.01aインターフェアに対するペナルティ【注】)を次のように改める。

〔注〕右〔原注〕はプレイが介在した後に妨害が発生した場合には適用しない。

(2)規則6.06(c)〔注二〕(新6.03a3【注2】)の「ただし」以下を次のように改める。

〔注二〕なお、捕手の送球によってランダウンプレイが始まろうとしたら、審判員はただちに“タイム”を宣告して打者を妨害によるアウトにし、走者を元の塁に戻す。

(3)規則5.09(b)〔注二〕(新5.06c2【注】)を次のように改める。

〔注二〕捕手の送球によってランダウンプレイが始まろうとしたら、審判員はただちに、“タイム”を宣告して走者を元の塁に戻す。

以上の三項目の改正は、いずれもわが国の規則委員会が作成している注釈文に当たる文章です。この発表文だけでは、あまりに簡単すぎてわかりにくい点もあろうかと思いますので、改正に携わった委員の一人として、冒頭の符号順序に従って説明を加えておきます。審判員の方々は、どうかしっかりと理解して正しく適用するようにして下さい。また、プレイヤーの方々も十分に理解を深め、不利となるプレイを行わないようにお願いします。

2.44(a)(注)改正のポイント(新6.01aインターフェアに対するペナルティ【注】)

打者走者が一塁到達前の妨害で、その前に他の塁で別なプレイが介在した場合の帰塁基準の変更である。

規則2.44(新6.01)は、妨害行為の定義が記されている項目です。この項には、(a)攻撃側、(b)守備側、(c)審判員、(d)観衆、というそれぞれ立場の違った人たちが犯した四種の妨害行為の概念が定められております。

今回の改正部分は、その中の(a)項、つまり「攻撃側の妨害」に記されている〔原注〕の規則適用の解釈を改めたものです。それが〔注〕の文章の改訂となったわけです。

したがって、新(‘93年、以下同)旧(’92年、以下同)の規則書の〔注〕の文章を比較すれば、改正点は一目瞭然と思われますが、なお一層の理解を深めるために、この規則改正に関する最も基本的な一つのプレイを例題として取り上げ、説明を試みることとします。

〔例題①〕

一死走者三塁、スクイズプレイが行われ、その打球が投手前方に転がった。これをつかんだ投手は本塁へ送球、本塁塁上でタッチプレイが行われたが、三塁走者の足が一瞬早く間一髪でセーフとなった。捕手はその後もプレイを続け、打者走者を刺そうと一塁へ送球を試みたが、その送球がスリーフット・ラインの外側を走っていた打者走者に当たり、打者走者は、規則6.05(k)(新5.09a11)を適用されてアウトの宣告を受けた。

この〔例題①〕に、新旧の規則を適用してみます。

①、旧規則を適用した場合三塁走者の得点を認めず、二死走者三塁でプレイを再開させる。

②、新規則を適用した場合三塁走者の得点を認め、二死無走者でプレイを再開させる。

適用結果①と②を比較すればすぐ理解できることと思いますが、この改正は、打者走者が一塁へ到達しないうちに妨害が発生したときに、それ以前に他の場所で他の別のプレイが介在していた場合、そのプレイの処置をどうするのか、つまり、介在プレイを有効として認めるのか否かということに関する規則適用の変更であるわけです。もっと厳密に言えば、当事者(妨害を行ってアウトの宣告を受けた走者)以外の他の走者の帰塁基準規則の適用変更ということになります。

旧規則ですと、このようなプレイの下で介在プレイを有効として認めるのは、そのプレイで「アウトが成立したとき」だけで、他のプレイはすべて無効として、走者を「投手の投球当時の占有塁」に戻していました。つまり、介在プレイでセーフとなった走者、および他の塁の走者の進塁は一切認めず、これらの走者に対しては、〔原注〕に定められた規則を厳格に適用していたわけです。

しかし本年からは、プレイが介在した場合は、〔原注〕に定められている帰塁の基準、つまり「投球当時の占有塁」へ帰すという規則を適用しないで、本文に記されている走者の帰塁基準の大原則の定めに従って、すべての走者を「妨害発生時の占有塁」に帰すという解釈に改めたのです。

したがって、例外プレイ①における本塁を陥れた走者に対する処置方法が、まったく逆の結果となってしまったわけです。

ここで、改正のポイントをもうー度箇条書きで整理しておきます。

①、攻撃側の妨害が発生したときに、塁上の走者の帰塁基準は「妨害発生当時」と「投球当時」の二つに分けられる。

②、その妨害行為のうち、打者走者が一塁へ到達しないうちに妨害が発生したときは、走者の帰塁基準は原則として(ダイレクトプレイの場合に限って)、「投球当時」(原注の適用)となる。

③、しかし、②のプレイで、妨害発生以前に、他の塁で別のプレイが介在した場合は〔原注〕を適用せず、本文に定められている基準(妨害発生時の占有塁)を適用して走者を帰塁させる。

以上の説明でこの項に関する〔原注〕の新しい適用法は十分に理解されたことと思いますが、一つ注意してほしい点は、妨害発生前にプレイが介在せず、〔原注〕を適用しなければならなくなった場合には、改正前も改正後も、その結果がまったく変わらないということです。そのプレイの例と適用結果を、次に〔例題②〕として記しておきます。確認をしてください。

〔例題②〕

例題プレイ①において、投手が最初から本塁への送球をあきらめ、打者走者を刺そうと直接一塁へ送球し、その送球がスリーフット・ライン外を走っていた打者走者に当たってしまった。

(適用結果)

妨害プレイの前に、他の塁で別のプレイが何も介在していないので、あくまで〔原注〕を適用して、打者走者にアウトを宣告、走者を三塁へ帰塁させ、二死走者三塁でプレイを再開させる。新、旧規則ともに、まったく変わらない適用結果となる。

実は、この2.44の〔原注〕(新6.01)文が日本の規則書に登場したのが1972年です。言うまでもなくその理由は、アメリカの原文(オフィシャル・ルールブック)にこの文章が追加挿入されたことによるものですが、それ以来20年余にわたり、日本野球規則委員会はこの〔原注〕の適用解釈を巡って大いなる論争を重ねてきました。それは、日本の委員会が、この原文の適用解釈をアメリカの規則委員会が考えているような単純解釈をして採用するわけにはいかない、という見解を終始一貫してとってきたからなのです。

そのことは、アメリカの原文(1)が一字一句まったく変わりなく今日まで掲載されているにもかかわらず、日本の規則書は’72年に新〔原注〕(2)を挿入して以来、二転三転(’73年原注一部改正・新注(3)挿入、’74年原注改正(4)・注削除、’87年新原注(5)・新注(6)挿入、’88年注(7)一部改正、’93年新注(8)挿入)の目まぐるしき改正を行っている経緯を見ても明らかです。

それでは、何故日本の規則委員会はこの原文に頭を悩ませたのでしょうか。次の例題プレイ③に対するメジャーリーグの適用解釈を見れば容易に理解できることと思います。

〔例題③〕

無死満塁で投ゴロ、投→捕→一塁と転送される併殺プレイで、本塁でフォースアウトが成立した後、打者走者が一塁手への送球を妨害した。

(メジャーリーグの適用解釈)

本塁でのアウトを取り消し、あくまで走者を「投球当時の占有塁」、つまり、三塁へ戻し、一死満塁でプレイを再開させる。

この適用法は、昨年も筆者個人が数名の現役大リーグ審判員に文書で回答を求めて、返信を受けているので間違いはありません。英文に興味のある方は、巻末に記されているその代表的な返信の一つ、ハリー・ウエンデルスデット(9)氏の回答文(11)と筆者の質問文(10)を見ていただければさらに明確になることと思います。

しかし、このような適用法は、どう考えても我々日本人には納得のいかないものであることは事実です。それは、せっかく二つのアウトを取れる確率の高い機会が生じている守備則が、攻撃側の不正行為によって一つのアウトを減らされてしまうからです。もし、日本でこのような解釈を採用すれば、攻撃側は必ず故意に併殺を妨げてチャンスを残し、攻撃を有利に展開させるアンフェアーなプレイを考え出してしまうでしょう。これでは、ルールの基本的な大原則である「競技者に対等の条件を保証する機能」には成り得ません。

そこで日本の規則委員会が苦悩に苦悩を重ねた揚げ句に考え出した新しい解釈が、本年度の改正文であるわけです。

この新規則は、実は、アメリカのナショナル・アソシエーション(マイナーリーグ)の内規として用いられているものと同じものなのです。今回の改正はこれをまねたものではまったくなく、たまたま委員会の検討結果の結論がこれと一致しただけなのですが、筆者の入手した資料の中に、その適用解釈の一文が発見されましたので、その原文(12)を巻末に記しておきました。興味のある方は、ぜひ参照されて、2.44〔原注〕の解釈の難しさと多様性の一端を少しでも理解していただければ幸いです。

6.06(c)〔注二〕改正のポイント(新6.03a3【注2】)

捕手の第一投で走者をアウトにできなければすべてボールデッド

規則6.06(新6.03a)は、打者が反則行為でアウトの宣告を受けるときの規定が四項目に分けられて記されているところです。今回の改正部分は、その中の三番目の(c)項の〔注二〕(新(3)項の【注2】)後段に記されている「ランダウンプレイになったとき」の適用解釈を改めたものです。

この(c)項(新(3)項)には、打者が捕手の守備や送球などを妨害したとき、打者をアウトにする規定が記されています。しかしその中に、打者に妨害行為があっても、捕手がプレイをして走者を現実にアウトにすることができたときには、打者をそのままにして、その走者のアウトを認めてプレイを続行させるという、いわゆるフットボールなどで用いている一種のアドバンテージ・ルールが採用されています。

つまり、妨害が生じたときに直ちにボールデッドにするのではなく、その後プレイが継続された場合、そのプレイの成り行きを見守って、守備側に不利益が生じない(走者がアウトになった)ときは、そのプレイを認めようとする規則です。

日本の規則委員会は、そのようなときのプレイをさらにきめ細かに想定して、当項〔注二〕に、二つのプレイに対する適用解釈を明記しております。

その二つのプレイとは、①「守備側にアウトの機会はあっても、野手の失策で走者を生かした場合」と、②「捕手からの送球によってランダウンプレイが始まった場合」です。

そして、それぞれのプレイに対する規則の適用法を、①の場合「打者の妨害を認めアウトを宣告、走者を妨害発生時の占有塁に戻す」、②の場合「ランダウンプレイ中に守備の不手ぎわから走者を生かした場合にかぎって、妨害を認めずプレイを続行させる」という解釈をとってきました。

しかし、’86年ごろより一部の委員から「②に関する適用解釈はおかしい。アメリカでは、このようになったときには直ちにボールデッドとして、プレイを止めて、あくまで打者をアウトにしている」という問題提起がありました。また、この問題を検討する中で、他の見解の一つとして「同じようなプレイの結果(①②共に結果としては守備側のミス)に対して、異なった二つの適用解釈(①は打者の妨害を認めるが、②は認めずプレイ続行)をしているのではないか」という矛盾性を指摘する声もあったことは事実です。

そこで委員会としては種々検討を重ねた末に、’88年度よりこの部分の改正に踏み切り、本年度の新改正文と解釈がまったく変わらないほぼ同文の新文章13)を規則書に挿入したのです。ところが’90年になって、この部分を’72年より’87年まで続いた旧文章に戻してしまったのです。その理由として、ルール適用の際の競技者に与える平等性が疑問視されたことと、委員会自体にアメリカの適用法をしっかり調査確認していないずさんさがあった、などという事柄が挙げられます。

この目まぐるしい改正は、今振り返ってみますと委員会としてはまったくの恥さらしで、プレイに携わるすべての人々に大変なご迷惑をおかけしてしまい、委員の一人としても、深くお詫び申し上げなければならないと反省しているところです。また、何故もっと綿密な検討と調査を重ねられなかったのかと悔いを残している次第です。

さて、そのような責任感からも、委員会としては’90年の再改正以後も、このプレイに関しては引き続きさまざまな協議を重ねてまいりました。そして’92年の末に、アメリカ球界ではメジャーリーグを筆頭に、マイナーリーグを含む大小すべてのリーグで「ランダウンになったときは直ちにボールデッドで打者アウト、走者を妨害発生時に戻す」という規則を採用している確認を得たのです(巻末参考文、筆者の質問文14)に対するウエンデルステット氏の回答文15)参照のこと)。そこでまた恥を忍んで本年度より再改正を行い、’88年度より二年間にわたって採用していた規則に戻すことにしたわけです。

この改正の決め手となった理由は、アメリカにおける規則適用の基準が誠に明解であり、予測されるさまざまなプレイに対して一貫性を持って対応できる明確さを持っていたからです。

それは「捕手の最初の送球(第一投)によるプレイで走者をアウトにできないときには、すべてボールデッドとして、打者アウト、走者を妨害発生時の占有塁に戻す」という基準です。

筆者が調査したメジャーリーグの内規集の中に、この基準を適用した格好の例題プレイが掲載されていましたので、その中の二例を以下に翻訳してご紹介します。この具体的なプレイを参考にして、改正の趣旨(ランダウンプレイになったらプレイを止めて妨害を適用)の理解を深めて下さい。

〔例題①〕

(プレイの設定)……一死走者一塁。一塁走者は二塁ヘスタート。捕手は送球動作を打者に妨害されながらも二塁へ送球、その送球が悪送球となって中堅方向へ転がった。それを見た走者はさらに三塁を狙ったが、外野手からの好返球で三塁寸前でアウトになった。

(規則の適用)……打者をアウトにして三塁へ走ってアウトになった走者を一塁へ戻し、二死走者一塁でプレイを再開。

(処置理由)……走者が三塁でアウトになった送球は外野手からの第二番目の送球で、捕手の最初の送球(第一投)ではない。

〔例題②〕

(プレイの設定)……一死走者一、三塁。一塁走者は二塁ヘスタート。捕手は送球動作を打者に妨害されながらも二塁へ送球した。そのとき三塁走者が本塁ヘスタートを起こしたので、遊撃手が二塁べ一ス前方へ出て捕手からの送球をカット、直ちに本塁へ送球した。三塁走者はその送球で本塁寸前でアウトになった。

(規則の適用)……打者をアウトにして走者を一、三塁へ戻し、二死一、三塁でプレイを再開。

(処置理由)……走者が本塁でアウトになったときの送球は、遊撃手からの第二番目の送球で、捕手の最初の送球(第一投)ではない。

5.09(b)〔注二〕改正のポイント(新5.06c2【注】)

6.06(c)〔注二〕改正に伴う必然的な改正である(新6.03a3【注2】)

規則5.09(新5.06c)は、さまざまなプレイがボールデッドになったとき、塁上の走者の占有する基準塁をどこにするのかという規定を(a)~(h)(新(1)~(8))の八項目に分けて記してあるところです。今回の改正部分はその中の二番目の(b)項「球審が捕手の送球動作を妨害した場合」の〔注二〕の文章を新しく書き換えたものです。

新改正文を読んでいただければすぐ気づかれることと思いますが、この項の改正は、本年度の(2)の改正に伴った必然的な改正なのです。

つまり、妨害した当事者〈前項の(2)は打者、当項は球審〉が異なっても、その後のプレイがまったく同じような展開になった場合には、規則適用の解釈を同一にしておくことの当然の必要性から生じた改正です。

したがって、前項(2)6.06(c)項の改正をしっかりと理解すれば、当項はなんら問題はないはずです。新、旧規則書のそれぞれの同一年度における(2)と(3)に関する〔注〕文章を比較して、その関連性を確認しておいて下さい。

いずれにしても、(2)および(3)に関する新規則は、前年度の旧規則と比べて、その適用結果がまったく逆の相反する規則適用(旧規則一妨害を認めずプレイ続行、新規則一妨害を認め打者アウト)に改正されたことを十分理解しておいてほしいと思います。

以上、本年度改正規則に関するポイントを解説しました。規則を定めるということは、人間社会のあらゆる場で採用されている必然的な必須の条件ですが、どのような種類の規則であっても、それを定めることと守ることがいかに難しいものであるかは、人類の生きざまの歴史を見ても明らかです。

人間が作った規則は、すべて「生きているもの、育っているもの」です。また、その時々で「人々が守らなければならない最低のモラル」でもあるわけです。野球規則も然りであると思います。どうかこれらのことを十分ご理解の上、本年も正しいプレイと正しい適用を行うよう努力して下さい。