【2001年】

改正規則2項目を発表

日本野球規則委員会は、去る2月6日、下記2項目を本年度の改正規則として発表しました。本年度は、プレイに関する規則改正はなく、いずれも用具に関するものです。

(1)1・10(c)【付記】に【注三】および【軟式注】を追加する。

【注三】アマチュア野球では、金属製バットを次のとおリ規定する。

①最大径の制限-バットの最大直径は、67ミリ未満とする。

②質量の制限-バットの質量は、900グラム以上とする。なお、金属製バットの質量とは完成品であり、ヘッドギャップ(一体成形等により、ヘッドキャップを用いていないものにあっては、それと同等の部位)、グリップエンドノブ、グリップテープを除いた本体の質量は、810グラム±10グラム以上とする。

③形状の制限-金属製のバットの形状は、先端からグリップ部までは、なだらかな傾斜でなければならない。なお、なだらかな傾斜とは、打球部からグリップ部までの 外径の収縮率(全体傾斜率) が、10%を超えないことをいう。

 また、テーパ部の任意の箇所においても、50ミリの間での外径収縮率(最大傾斜率) は、20%を超えないことをいう。
なお、この規定の実施時期は各連盟で定める。
【軟式注】軟式野球では、この規定を適用しない。

(2)1・11(h)に次の【注】を加える。

【注】我が国のプロ野球では、本項を適用しない。

1・10(C)【付記】【注三】および【軟式注】の追加

金属製バットに関する改正です。 金属製バットが木製バットの代用として開発されてから、およそ30年近く経過しています。高校野球では、1974年にその使用が許可になっています。

金属製バットは、木のバットに比べ、寿命が長く、経済的であること、また自然保護にもつながること、加えてメーカーの技術革新等による性能向上ともあいまって、一挙に普及しました。

しかしながら、金属製バットはメリットをもたらした半面、「飛ぶことを追求」したあまり、安全性の問題や投打のバランスが崩れるといった、いくつかの問題を提起しました。特に、安全性の問題は重大で、日本高等学校野球連盟(高野連)の調べでは、投手が打球を避けきれずに頭部に受け、死亡した事故が過去7件発生しており、またそのほかにも打球を頼に受け、陥没骨折した事故などが報告されています。

このように、技術革新によって、「より速く、より遠くへ」飛ばすハイテクバットの登場は、木のバットの野球を大きく変えてきました。 全日本アマチュア野球連盟では、数年前から金属製バットの安全性を高めるための具体策の検討を進めてきました。検討の視点は、軽量化によって増したバットスピードをいかに抑えるか、同時にバットの反発力をいかに抑えるか、そして木製バットの性能にいかに近づけていくかといった点にありました。

その結果が、今回の改正となって表れたものです。つまり、現行規則1・10では、バットの長さおよび細工に関する規制が中心でしたが、前述の視点から、新たに最大径の制限、質量の制限、ならびに形状の制限が加えられました。

現行規則1・10(バット)(a)では、「バットはなめらかな円い棒であり、太さはその最も太い部分の直径が7.0センチ以下、長さは106.7センチ以下であることが必要である。バットは一本の木材で作られるべきである」と規定されています。その太さの制限を67㍉未満と改正したわけですが、現在の金属製バットは、新素材の開発等により、安全基準に定められた強度を保ちつつ、できるだけ肉厚を薄くし、打撃時に打球部が局部的に変形した後に急速に復元するトランポリン効果が生じるように設計されています。仮に、同じ肉厚のバットを細くすると、太いものより打撃時の打球部の変形量は少なくなり、トランポリン効果が弱まって、打球が飛びにくくなって、球速も落ちてきます。

次に、質量を完成品で900㌘以上と規定しました。現在使われている金属製バットは、だいたい850㌘前後とたいへん軽く、その結果、スイング速度も上がり、打球の初速に少なからず影響を与えています。重量を木製バットに近づけ、重くすることは、スイング速度の抑制に関係し、結果として、初速や飛距離の抑制に効果があります。高野連の調査では、バットが100㌘重くなるとスイングの速さは時速3㌔ほど遅くなり、飛距離も約10㍍短くなるといわれています。

形状の制限、これは言うまでもなく、木製バットではあり得ないような、打球部を広くした金属製バットならではの形状を規制することがねらいです。なだらかな傾斜を規定することで、できるだけ木製バットに近づけました。したがって、羽子板形のような極端なテーパ部をつけた形状は認められません。

以上のように、今回の改正で、細く、なだらかな傾斜を持ち、重くすることで、できるだけ木製バットに近づけ、軽すぎ、飛びすぎの危険を抑制し、安全性を高めることになりました。また、併せて本塁打が飛び交う、打撃優位の大味な試合がいくプんでも減って、より緊迫したゲームが増えることを期待しています。 なお、この規定の実施時期ですが、各連盟で定めるとなっており、高校野球では秋季大会から、そして社会人では第72回都市対抗野球大会(平成13年7月21日開会)から、新金属製バットの使用が義務づけられます。それまでは、従来使用されているバットとの併用が可能です。新基準のバットは、グリップのバット先端側テーパ部に『N』(ニュースタンダードの略)の表示があります。 また、軟式野球においては、特に重量制限を設けることは無理なため、この規定を適用しないこととしました。

1・11(h)【注】の追加

現行規則では、ユニフォームのいかなる部分にも、宣伝、広告に類する布切れまたは図案を付けてはならないとなっています。しかし、時代の流れでしょうか、プロ野球では今シーズンから、ユニフォームおよびヘルメットにスポンサーの商標を付けることが認められました。当然、この規定はプロ野球だけに適用されるものです。

アマチュア野球特別指導事項

規則改正ではありませんが、今年の規則委員会で大いに議論されたのが、いわゆる「山なりの牽制球」の取り扱いでした。

最近、走者がリードしていないにもかかわらず、打者のタイミングを外すためか、投手が塁へ「山なりの、ゆるい」牽制球を投げる行為が目立ちます。こうした行為は、「牽制球」というより、むしろ「投手が不必要に試合を遅延させた場合(規則8・05h)に該当するのではないか、との問題提起が規則委員会に出されました。

規則委員会では、いったん、「アマチュア野球では、一度警告を発し、なお繰り返されたときには遅延行為を適用してボークにする」ことでまとまりかけましたが、慎重派と厳格派とに二分され、なかなか結論を得られなかったのが実情です。

すなわち、慎重派は、審判員のバラつきが大きいので(ボークの)らん用が心配である、選手・審判員双方に徹底の時間が必要である、これまでこのような行為があっても見逃してきたのに、今年からいきなり厳格に規則を適用するとなると混乱が生じる恐れがある、したがって1年間の指導期間を設けてほしいとの意見でした。

一方、厳格派は、一度警告することで指導の役割は果たせている、不必要な遅延行為は若いころから習慣づけをし、厳しく規則を適用していかないとなかなか直らないものだ、規則の適用をあいまいにすべきではない、したがって原案どおり一度警告の後、なお繰り返されたら遅延行為でボークとすべきである、アマ内規の追加も検討すべきであるとの意見でした。

規則委員会で活発な議論が交わされた後、このような行為が遅延行為に当たることでは意見の一致を見たものの、結局は、慎重派の意見を採用し、「アマチュア野球特別指導事項」として下記文書を各団体に送付して、1年間の指導期間を設けて投手の不必要な遅延行為をやめさせていくこととしました。

誤解のないように申し上げれば、この指導事項があるから投手の遅延行為に目をつぶるということではもちろんなく、明らかな遅延行為と審判員がみなせば、規則8・05(h)でボークとすることはあるということです。

●アマチュア野球特別指導事項

規則8・05(h)の運用について

走者がリードしていないにもかかわらず、投手が塁へ“山なりの、ゆるい”牽制球を投げる行為は、牽制球とは見なしがたく、規則8・05(h)の「投手の不必要な試合の遅延行為」に該当します。

従来、このような行為が見逃されてきたので、本年はこうした行為をしないよう徹底指導をお願いします。

なお、本年は指導期間とし、規則8・05(h)を厳格に適用して「ボーク」を宣告するのは2002年からとします。以上で、2001年度発表の改正規則2項目に関する解説を終わります。