【2002年】
改正規則2項目を発表
日本野球規則委員会は、去る1月25日、下記2項目を本年度の改正規則として発表しました。本年度は、昨年度に引き続き、プレイに関する規則改正はなく、いずれも用具に関するものです。
(1)1・10 (d) [注一] を削除し、[注二]を[注]とする。
(2)1・11(h)[注]を[注一]とし、次の[注二]を加える。
[注二]アマチュア野球では、所属する連盟、協会の規定に従う。
1・10(d)[注一]の削除
着色バットに関する規定です。これまで、わが国のプロ野球では、ダークブラウン(こげ茶)の着色バットの使用が認められておりました。ところが、昨年、阪神に入団した米国の選手が「薄い赤褐色」のバットを持ち込んだことから、プロ側は条件付きでダークブラウン以外のこの着色バットを認めることにしました。その条件とは、「許可された色以上に濃くしないこと、木目がはっきり見えること、塗料がボールに付着するような粗悪な技術を用いないこと」の三つです。
今後も、ダークブラウン、薄い赤褐色以外の色バットの出現も予想されることから、プロ側はその都度、[注]に色を追加する手間を避け、規則委員会の承認で着色バットを使用できるように改めたものです。往年の川上哲治の赤バット、大下弘の青バットの復活を意味するものではありません。
なお、アマチュア野球では、従来通り、それぞれの連盟、協会の規定に従うことになります。
参考までに、一口にバットと言っても、最近、いろいろな素材のものが出てきました。現在、アマチュアに限って言えば、木製バットはもちろん、金属バット、合板バット、圧縮バット、竹バットなどの使用が認められています。また、折れにくいように、テーパ部を補強したバットとか、樹脂加工バットの使用も認められるようになりましたが、新しいバットの許可基準は、あくまで木を素材にしたものであって、カーボンバットなどは、安全性、反発力などのデータ収集が必要なことから、まだ使用が認められておりません。
1・11(h) [注二] の追加
ユニフォームの商標に関する規定ですが、規則1・11(h)では、「ユニフォームのいかなる部分にも、宣伝、広告に類する布切れまたは図案を付けてはならない」とあります。しかし、昨年、「我が国のプロ野球では、本項を適用しない」との[注]が追加され、プロ野球の選手のユニフォーム、およびヘルメットにスポンサーの商標が付いていたのに気付かれたと思います。
一方、昨年11月、台湾で開催されたワールドカップにプロ・アマ合同チームが出場、その選手たちのユニフォームの袖に「ENEOS」の商標が付いていました。
このように、オリンピックやワールドカップなどの国際大会で、アマチュアの選手も、今後はスポンサーの商標付きのユニフォームを着用することがあり得ることから、それが規則の上からも問題がないように、[注二]を追加して手当てしたものです。
フェンスに当たってスタンドインした打球について
・・・・いわゆる“甲子園のホームラン”・・・・・
規則改正ではありませんが、阪神甲子園球場で開かれた昨夏の全国高校野球選手権大会の日大三一明豊戦で、日大三・内田選手の打球は、左翼フェンスのラバー部分の最上部に当たって大きく跳ね上がり、その上の金網を越えて左翼席に入りました(図1)。
アマチュアでは、このような打球はホームランとしていました。ところが、この判定に対し、「プロは二塁打、アマは本塁打」、どうしてプロ・アマで解釈が違うのかと、大変な反響を呼ぶことになりました。
これまでの経緯を振り返ってみましょう。
発端となったプレイは、1992年9月11日の阪神-ヤクルト18回戦(甲子園)で、阪神・八木選手の打球がラバーフェンスの上部に当たってから金網を越えてスタンドに入り、一度「本塁打」の判定が出た後、「エンタイトル二塁打」に変更されました。この処置をめぐって、過去2回(1993年、および1994年)にわたってプロ・アマ合同野球規則委員会で論議を重ねましたが、結局、見解の一致を見ず、プロ・アマそれぞれ異なった解釈で今日に至っておりました。そこへ再び、高校野球で同じケースが起きたというわけです。
このときのプロ側の見解は、「甲子園の特別ルールで、打球がフェンスの上部にある黄緑を直接越えていないから二塁打とした。フェンスは土の一部と見ており(“地面が縦に伸びている”)、したがって、フェンスに当たってスタンドに入っても二塁打。ただし、フェンスの頂上部分に当たってスタンドに入れば、それは本塁打となる(つまり、フェンスの前縁までが地面扱い)」ということでした。
これに対して、アマ側は、
・プロ側の主張する「フェンスは地面の延長である」との解釈はおかしい。
・エンタイトル二塁打になるケースは、規則7・05(f)に定めるように、フェアの打球が、
(1)バウンドしてスタンドに入るか…
(2)競技場のフェンス、スコアボード、潅木、またはフェンスのつる草を抜けるか、はさまった場合だけである。
したがって、“地面ではない”フェンスに当たって現実にオーバーフェンスした打球はホームランとするのが正しいのではないか、と主張してきました。
しかし、昨夏の高校野球での反響を考え、また、甲子園と同じような構造の球場がほかにも存在することから、何とかプロ・アマ統一の見解が出せないものかと、今年の1月12日のプロ・アマ合同野球規則委員会で、再度、議題として取り上げることにしました。
この席で、プロ側から次の通りの見解が示されました。
(1)7・05(a)本塁が与えられる場合「フェアボールがインフライトの状態でプレイングフィールドの外に出て…」
(2)1・01「野球は、囲いのある競技場で・・」
上記(1)(2)下線部から、プレイングフィールドの内と外は囲いによって分けられるものであり、その囲いにはフェンス、ネット、あるいはフェンスの上にネットを設置(例:甲子園球場)してあるものが含まれる。また、内と外との境界線はそれぞれ、フェンス、ネット等の最上部にあり、境界線は1本であるはずで、フェンス上にネットが設置されている球場の境界線はネットの最上部となる。
飛球がフェンスに当たり、その上にあるネットを越えて場外に出たケースについては、 2・41「インフライト」一打球、送球、投球が、地面あるいは野手以外のものにまだ触れていない状態を指す。により、フェンスは野手以外のものに該当し、打球がフェンスに当たった時点でインフライトの状態は消え、かつ、打球が当たった地点より上方に境界線があるため、7・05(a)による本塁打とする根拠はない。フェンス、ネット、あるいはフェンスの上にあるネットなど、競技場の内・外を定める境界線となるそれらの最上部にインフライトの打球が当たったときだけ、その後、打球が場外に出たら本塁を与え(ボールデッド)、打球が場内に跳ね返ったらボールインプレイであり、しかも、インフライトの状態ではないので、野手が直接捕球してもアウトにならないことになる。
過去の規則委員会で、プロ側からの「フェンスは地面の一部」という発言は、正しくは野手以外のものという表現が適切だったと思う。
したがって、1992年の阪神一ヤクルト戦、2001年夏の全国高校野球選手権大会での二つのケースについては、インフライトの打球が、境界線となるネットの上部ではなく、ネットを支えているフェンスの上部に当たって場外に出たので二塁打である、というのがプロ側の見解である。 以上のプロ側の見解を受けて、アマ側は1月29日の日本アマチュア野球規則委員会総会に諮りました。
アマ側は、「フェンスが地面の延長である」という解釈は無理がある、エンタイトル二塁打のケースに該当しない、だから本塁打とすべきと主張してきましたが、アマ側の解釈でも、プレイングフィールドとスタンドを分ける境界線はどこなのか、また、インフライトの状態が消えた打球をホームランとすることで正しいのかといった疑義も生じておりました。
今回のプロ側が整理した見解は、プロが、アマがということではなく、規則を正確に読み直すと、理路整然としており、大変、明快で分かりやすいというのが、委員の間での一致した意見でした。従来の「フェンスは地面の延長である」との主張は撤回され、この整理だと、アマ側の解釈上の疑問も解消されます。その結果、これをもってプロ・アマ統一の解釈とすることにし、日本アマチュア野球規則委員会は、次の公式見解を発表しました。
「規則1・01、2・41および7・05(a)により、フェンスに当たってスタンドインした打球は、インフライトの状態でなくなったのちにスタンドインしたことから本塁打には該当せず、二塁打とする。ラバーフェンスの上にある金網のフェンスをプレイングフィールドの内と外とを分ける境界線と定め、この境界線をインフライトの状態で越えた打球を本塁打とする。なお、金網のフエンスの頂上部に当たってスタンドインした打球は本塁打として取り扱う。また、球場固有の理由でグランド特別ルールを設 けた場合はこの限りではない」
以上が、いわゆる“甲子園のホームラン”についての最終結論ですが、注意してほしいのは、プレイングフィールドとスタンドを分ける境界線は各球場で違うということです。したがって、その球場の境界線がどこなのか、必ず試合前にグラウンド特別ルールを確認する必要があります。
試合に際するそのほかの留意点
最後に、2点だけ、念のため申し添えておきます。
1点目は、いわゆる“山なりの牽制球”について、昨年1年間の指導期間が終了したことから、本件に関する「アマチュア野球特別指導事項」は廃止となり、“牽制”と認められない行為は、規則8・05(h)により、投手の不必要な遅延行為でボークとなります。
2点目は、ストライクゾーンです。今年から、プロは、高めについて野球規則通りの運用を徹底することになりました。誤解をしないでいただきたいのは、「野球規則通り」に運用するということです。つまり、プロは、これまで独自にストライクゾーンを設定していたということで、規則が変わったということではありません。アマチュアは、従来から高めを規則通り、勇気を持ってしっかりとろうと指導してきました。むしろ、プロとアマでストライクゾーンが統一されたことを、歓迎すべきではないでしょうか。規則2・72「ストライク」、2・73「ストライクゾーン」(図2)に則って、自信を持ってジャッジするよう、審判員の皆さんにお願いします。
以上で、2002年度発表の改正規則、ならびにトピックスについての解説を終わります。