2012年度 改正規則解説
~改正規則と規則適用上の解釈について~
麻生紘二<日本野球規則委員会委員>

■改正規則の解説~規則の改正は7か所
(1)2.76に追加
(2)3.15の改正
(3)6.05(o)の追加
(4)7.08(l)の追加
(5)7.11の改正
(6)8.02(a)(1)の追加
(7)8.05ペナルティ[注一]の削除
では、以下これらの改正について解説をしていきます。

■2.76に追加
しかし、塁または走者に触れると同時、あるいはその直後に、ボールを落とした場合は、“触球”ではない。
野手が塁または走者に触れた後、これに続く送球動作に移ってからボールを落とした場合は、“触球”と判定される。
要するに、野手が塁または走者に触れた後、野手がボールを確実につかんでいたことが明らかであれば、これを落とした場合でも、“触球”と判定される。

TAG(触球)の定義が、2.15のCatch(捕球)の平仄(ひょうそく)に合わせる形で追加されました。塁または走者にタッグ(触球)した後も、野手は確実にボールを保持していなければならないと明確に定義され、タッグ(触球)と同時に、野手のグラブからボールが飛び出したような場合には、タッグ(触球)とはならないということです。

審判員も、タッグ(触球)かどうか、キャッチ(捕球)と同様、判定を急ぐことなく、確実にボールが保持されていることを確認してから判定をするようにしなければなりません。

■3.15の改正
①二段目のカッコ内を次のように改める。(傍線部を改正)
(試合に参加している攻撃側メンバーまたはベースコーチ、そのいずれかが打球または送球を守備しようとしている野手を妨害した場合、あるいは審判員を除く)

② [付記]を削除し、[原注]の冒頭に次の文を追加する。
本条で除かれている攻撃側メンバーまたはベースコーチが、打球または送球を守備しようとしている野手を妨害した場合については、7.11参照。審判員による妨害については、5.09(b)、同(f)および6.08(d)、走者による切害については7.08(b)参照。

③ [原注]に次の例を追加する。
例__打者が遊撃手にゴロを打ち、それを捕った遊撃手が一塁に悪送球した。一塁ベースコーチは送球に当たるのを避けようとしてグラウンドに倒れ、悪送球を捕りに行こうとした一塁手と衝突した。打者走者は三塁にまで到達した。妨害を宣告するかどうかは審判員の判断による。コーチが妨害を避けようとしたが避けきれなかったと判断すれば、審判員は妨害を宣告してはならない。

規則3.15では、競技場内に入ることを公認された人の妨害について規定されていますが、走者、試合に参加している攻撃側チームのメンバー、ベースコーチあるいは審判員の妨害については、別途定められていますのでご参照ください。

妨害に関する規定を整理すると次のようになります。

誰が守備を妨害したのか 関連規則
競技場に入ることを公認された人 3.15
攻撃側メンバーまたはベースコーチ 5.08、7.11
審判員 5.09(b)(f)、6.08(d)
走者 7.08(b)

[原注]には、例題が追加になりました。この例題は、以前から原文には掲載されており、わが国でも1985年までは規則書に載っていましたが、その必要なしと判断して削除されました。しかし、ベースコーチと野手との接触はよくあるケースで、規則委員会としては、その際妨害とみなすかどうかの判断基準として、例題があったほうが親切だと考え、今回掲載することに決めたものです。

■6.05(o)の追加
走者を除く攻撃側チームのメンバーが、打球を処理しようとしている野手の守備を妨害した場合とは、どういうことが考えられるでしょうか。

例えば、次打者、ベースコーチ、外野のファウルテリトリーにあるブルペンで投球練習しているバッテリー、コーチ、ブルペンで待機しているバッテリー、安全監視員、あるいはダッグアウト横で出場に備えて投送球のウォームアップをしているプレーヤー、ベンチまたはダッグアウト内のプレーヤー(スコアラー、トレーナー、監督、コーチを含む)などが、自分の占める場所を譲らなかったり、打球を蹴ったり、拾い上げたり、押し戻したり、野手の守備の妨げになったりして、打球を処理しようとしている野手の守備を妨害した場合がこれに当たります。

妨害を宣告された場合は、7.11に規定のとおり、ボールデッドとなって、打者がアウトとなり、すべての走者は投球当時に占有していた塁に戻ることになります。

■7.08(l)の追加
(1)走者を除く攻撃側チームのメンバーが、ある走者に対して行われた送球を処理しようとしている野手の守篇を妨害した場合(7.11参照。走者による妨害については7.08(b)参照)

前記の6.05(o)と違って、この規定は、送球を処理しようとしている野手の守備を、攻撃側チームのメンバー(前記のとおり)が妨害した場合です。

送球を処理しようとしている野手には、バックアップに来た野手も当然のことながら含まれます。
送球が偶然ベースコーチに触れたり、投球または送球が審判員に触れたときも、ボールインプレイである。しかし、ベースコーチが故意に送球を妨害した場合には、走者はアウトとなる。(5.08)

アマチュアでは、よく見られますが、控えの選手がバットボーイを務めることがあります。時折、そのバットボーイがバットを拾いに飛び出していき、そしてダイヤモンドの中まで入って、送球を処理しようとした捕手の守備の妨げになったり、送球に当たってしまう場合があります。

このような場合、バットボーイの“代役”といえども、ボールインプレイ中にフェア地域に入ることは許されず、入ってはいけないところに入ったことで”故意”の妨害とみなして、ボールデッドにして、審判員はもし妨害がなかったらどうなっていたかを判断して、ボールデッド後の処置をとります。

したがって、アマチュア野球で控えの選手がバットボーイを務める場合は、ボールインプレイ中に飛び出して妨害にならないよう、注意をしてください。

■7.11の改正
① 2行目のカッコ内を「ダッグアウト内またはブルペンを含む」に改める。(下線部を追加)
②ペナルティを削除し、本文に次の文を追加する。

走者を除く攻撃側チームのメンバーが、打球を処理しようとしている野手の守備を妨害した場合は、ボールデッドとなって、打者はアウトとなり、すべての走者は投球当時に占有していた塁に戻る。

走者を除く攻撃側チームのメンバーが、送球を処理しようとしている野手の守備を妨害した場合は、ボールデッドとなって、そのプレイの対象であった走者はアウトとなり、他のすべての走者は妨害発生の瞬間に占有していた塁に戻る。
6.05(o)および7.08(l)の妨害の処理が、7.11にて明確に規定されました。

■8.02(a)(1)の改正
投手が投手板を囲む18フィートの円い場所の中で、投球する手をロまたは唇につけた後にボールに触れるか、投手板に触れているときに投球する手を口または唇につけること。

投手は、ボールまたは投手板に触れる前に、投球する手の指をきれいに拭かなければならない。

8.02は投手の禁止事項を規定しています。今回の改正は、変更というより、どういう状態で投球する手を口または唇につけてはいけないのかを明確にしたものです。

これまでは18フィートの中で投球する手をロまたは唇につけても、投手板に触れる前にきれいに拭けば構わないとされていました。

今回の改正で、18フィートの中で投球する手を口または唇につけた後にボールに触れてはいけない、また投手板に触れているときに投球する手を口または唇につけてはいけないと具体的に規定されボールまたは投手板に触れる前には、投球する手の指をきれいに拭きなさいと言っています。

投球する手を口または唇につけて指をぬらし投球を意図的に変化さすような行為はアンフェアであり、そのほか規則ではボールに唾液をつけたり、異物をつけたり、傷つけたりすることを厳しく禁止しています。ボールをグラブ、身体、着衣で摩擦することも禁じられています。ただし、投手が素手でボールを摩擦することは許されています。(8.02)

■8.05ペナルティ[注1]の削除
昨年まで8.05ペナルティの[注1]として、次のような文章がありました。
[注1]投手の投球がボークとなり、それが四死球にあたった場合、走者一塁、一・二塁または満塁のときにはそのままプレイを続けるが、走者が二塁だけ、三塁だけ、またば二・三塁、一・三塁のときには、ペナルティの前段を適用する。

お分かりのように、打者が四死球で1塁が与えられ、それによって塁上の走者が押し出されて一個進んだような場合は、ボークに関係なくそのままプレイを続けるが、塁上の走者が押し出されるようなケースでないときは、ペナルティの前段を適用し、ボークの処置がとられるといっているわけですが、この[注一]は、ボーク後の投球を捕手が確捕した場合のことを説明しています。

しかし、次のような例題はどうでしょうか。
●例題1
走者二塁、打者のボールカウントが3ボール2ストライク.投手は次の四球目にボークをしながら投球。そのボールを捕手が後逸。それによって二塁走者は三塁に進んだ。

●例題2
走者二塁、打者のボールカウントが1ボール2ストライク。投手は次の三振目にボークをしながら投球。打者空振り、しかし捕手がそのボールを後逸。三振振り逃げで打者は一塁に生きた。その間二塁走者は三塁に進んだ。

上記の例はいずれも走者二塁だけのケースですが、ボーク後の投球で、打者も走者も一個進んでいることから、ボークと関係なくプレイは続けられることになります。[注1]があることで、字面だけで判断し走者二塁の場合はボークを適用するのではとの誤解を生じかねませんので、今回[注1]を削除したものです。

ペナルティ本文には、「ボークにもかかわらず、打者が安打、失策、四死球、その他で1塁に達し」とあり、現在「その他」は原則何でもよいとの解釈をとっていますので、上記のような解釈となります。

ただし、言うまでもなく、走者二塁でボーク後の投球が死球(ヒット・バイ・ピッチ)になった場合、走者が次塁へ進むことはないので、ボークが適用され走者三塁、打者打ち直し(打者は当たり損)となります。このように、走者二塁、走者二・三塁、走者一・三塁のケースでも、プレイがそのまま続く場合と、ボークが適用される場合とがありますのでご注意ください。

■規則適用上の解釈
改正規則の解説は以上で終わりますが、次に昨年規則委員会で議論された中から、二つだけ取り上げて規則適用上の解釈を紹介しますので参考にしてください。

8.01関連

●例題
走者三塁。投手がワインドアップポジションから投球動作を起こし、両腕を頭上に持っていったところで、三塁走者が本塁へ走ったのを見て、慌てて投手板を(後方または前方に)はずし、本塁に投げた。これは投球か送球か。審判員はどう処置したらよいか。
●答え
投手が投球動作を起こしながら途中で止めて(ボーク)、投手板をはずせばその時点で即ボールデッドにして、以後のプレイはすべて無効にします。

その理由は、投手がボークをしてそのまま投手板を踏んだ状態で打者に投球することはできます(正規の投球)。この場合、打者はその投球を打つこともできます。しかしながら、投手が投球動作を起こしながら、投球を中断して(ボーク)、投手板をはずせば(前・後を問わず)、それはもはや投球とは言えません。したがって、投球を止め、投手板をはずした時点でボールデッドにして、以後のプレイはすべて、無効にします。デッドになっているので、ボーク後に投手板をはずして本塁へ悪送球といったプレイはもはや生じることはありません。

なお、2009年にプロ・アマ合同野球規則委員会で「投手が投球動作に入った後、軸足を不正に投手板からはずして本塁に投げたり、あるいは投球動作を中断して軸足を投手板からはずして本塁へ投げたりした場合も、不正規の投球とみなす」との確認がなされましたが、今回その解釈を上記のように改めました。

4、09(b)ペナルティ関連四球の打者が一塁に進まず

●例題
3回表、二死満塁、打者のボールカウントは3ボール2ストライク、次の投球がワイルドピッチとなり、三塁走者は生還したが、本塁を狙った二塁走者は捕手からの送球で本塁でダッグアウト(三死)となった。四球を得た打者走者は一塁に進むことなく、そのまま打席を離れてダッグアウトの方向に向かっていた。球審は、打者走者が進塁を放棄したとしてアウトを宣告できるか、それとも打者走者をアウトにするには守備側のアピールが必要か。
●答え
球審が打者走者にアウトを宣告できるのは、4.09(b)ペナルティに記載のとおり、決勝点となる場合だけと考えられます。したがって、例題のように決勝点となるケース以外の場合、規則上は明記されていませんが、アマチュア内規④を準用して、二死満塁で四球を得て、一塁への安全進塁権を得た打者走者が一塁へ進もうとしなかった場合、その打者走者をアウトにするには守備側のアピールが必要です。

守備側のアピールがなかったとき、(あるいはアピール権が消滅したとき)は、四球の打者は一塁に進んだものと記録され、得点1が認められます。

しかし、守備側がアピールして打者走者がアウトになったときは、打者走者は一塁に到達するまでのアウトになって、三塁走者の得点は認められないことになります。
なお、守繍側投手および内野手がフェア地域を離れてしまえばアピール権は消滅し、また打者走者がダッグアウトに入ってしまえばもう一塁に向かうことはできず、アピールがあれば打者走者はアウトになります。