2015年度 改正規則解説

~改正規則と規則適用上の解釈について~
麻生紘二 <日本野球規則委員会委員>

改正規則の解説 ~規則の改正は7カ所

日本野球規則委員会は、1月8日に開催され、規則の改正について検討し、そして1月27日に2015年度の規則改正を以下のように発表しました。今年度は特に大きな改正はありませんでした。

(1) 1.17[注3]①および③に追加

(2) 3.06[原注]冒頭に追加

(3) 4.05[原注]に追加

(4) 6.10(b)(10)の改正

(5) 8.02(b)[原注]および同[注]を追加

(6) 8.05(d)[原注]に追加

(7) 9.02(c)[原注2]に追加

■ 1.17[注3]①および③に追加

(1) ① の3段目として次を追加する。

なお、これらの表示については、レーザー照射による文字入れを認める。

(2) ③ の1・2段目を次のように改める。(下線部を改正)

ミットまたはグラブに表示する商標は、布片、刺繍または野球規則委員会の承認を受けた樹脂製の成型物によるものとし、これを表示する個所は背帯あるいは背帯に近い部分、または親指のつけ根の部分のうちのいずれか1カ所に限定し、その大きさは縦4㌢以下、横7㌢以下でなければならない。

マーク類を布片、刺繍または前記樹脂製の成型物によって表示する場合(エナメル素材のように光る素材での表示は認められない)は、親指のつけ根に近い個所に限定し、その大きさは、縦3.5㌢、横3.5㌢以下でなければならない。

規則1.17はいわゆるコマーシャリゼーションの規定で1981年に作られました。やや時代にマッチしない点もあるのではと考え、見直しをしましたが、結果は上記の通り新技法を盛り込むに留まりました。

■ 3.06[原注]冒頭に追加

ダブルスイッチ(投手交代と同時に野手も交代させて、打撃順を入れ替える)の場合、監督はファウルラインを越える前に、まず球審に複数の交代と入れ替わる打撃順を通告しなければならない。監督またはコーチがファウルラインを越えたら、それ以後ダブルスイッチはできない。

[注]我が国では、本項[原注]前段については、所属する団体の規定に従う。

選手交代に関する規定ですが、普段あまり聞き慣れない、ダブルスイッチの場合の規定が追加になりました。ダブルスイッチとは、投手交代と同時に野手も交代させて、投手を含めて打撃順を入れ替えることを言います。打撃順が入れ替わらなければダブルスイッチとは言いません。例えば、監督がマウンドに行って投手と野手を交代した。しかし、打順の変更はなかった。この場合は、

ここで言うダブルスイッチには該当しません。ダブルスイッチの場合は、マウンドに行く前に球審に交代と打撃順を告げなさいと規定しました。それはマウンドに行ってから投手を代えようか、野手はどうしょうか、打撃順はどうしようかとか考えられたら、混乱はするし、また時間がかかるためで、それを避ける意味でもマウンドに行く前にまず交代を告げなさいとしたわけです。

■ 4.05[原注]末尾に追加

ベースコーチは、用具の交換を除き、走者の身体に触れてはならない。

これは何を意味しているのか。テレビでメジャーの試合を観ているとよくこんなシーンが見られます。打者が一塁に出ると一塁ベースコーチが打者走者の後ろに回って耳元で何かささやいています。これは三塁ベースコーチから出されたサインを読み、その確認を打者走者にしているのだと思われます。大の大人が、走者が出るたび毎回こんな光景が繰り返されるわけですが、目障りで、あまり好感の持てるシーンではありませんので、それを禁止しようというものです。エルボーガード、レッグガード等を外したらプレイに支障がないようコーチはすぐ下がりなさいと規定されたものの、残念ながら昨シーズンのメジャーを見ている限りこの規定はまったくと言っていいほど守られていませんでした。ベースコーチについては、コーチスボックスの中にいなさいと決められているにもかかわらず、なぜかほとんどのコーチャーがボックスから出ているように、ベースコーチはなぜ規則を守れないのだろうと不思議に思います。実際、プレーヤーだけでなく、審判員の立場からもコーチャーの存在が邪魔になることがあります。

■ 6.10(b)(10)の改正(下線部を改正)

投手が指名打者に代わって打撃するかまたは走者になった場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。試合に出場している投手は、指名打者に代わってだけ打撃または走者になることができる。

従来、投手は指名打者に代わって打撃をすることが認められていましたが、今回の改正で代走もできるようになりました。

なお、記録上はどう扱っているかというと、プロ野球の場合、細則で、もともと投手は試合に出ているので、代打、代走という処理はしていないそうです。

■ 8.02(b)[原注]および同[注]を追加

[原注] 投手は、いずれの手、指または手首に何もつけてはならない(たとえば救急ばんそうこう、テープ、瞬間接着剤、ブレスレットなど)。審判員が異物と判断するかしないか、いずれの場合も、手、指または手首に何かをつけて投球することを許してはならない。

[注] 我が国では、本項[原注]については、所属する団体の規定に従う。

この規定で注目すべきは、「投げ手の」ではなく、「いずれの」と言っていることです。投げ手に異物をつけてはいけないというのは容易に理解できるわけですが、グラブをはめた手、指または手首もダメというのはどういうことでしょうか。それは我が国ではあり得ないと言っていいと思いますが、昨シーズンメジャーでは首筋に松ヤニをつけてそれをボールにこすりつけていた投手が見

つかり、退場処分になった例に見られるように、メジャーではとんでもないことが起きます。ですからグラブの指の中に松ヤニをつけておき、その指でボールをこねて投球するというルール破りもあるかもしれません。また米国では契約社会ですからルールブックのどこに禁止と書いてあるのか、書いてないからいいじゃないかという判断がよくなされます。そのため分かり切ったことでも、厳し過ぎるくらい、細かに規定を明文化していきます。

今回も先手を打ってアンフェアに対し予防措置を講じたと理解できます。

では、見えなければいいのか、例えばアンダーシャツに隠れていたり、グラブに隠れていたりした場合は許されるのかといった質問が必ず寄せられますが、もちろん規則上はダメです。誰も見ていないから悪いことをしてもいいだろうと言うのと同じ理屈です。

参考までに、社会人野球および大学野球では、8.02(b)本文および[原注]の適用に際しては、「投球に影響を及ぼすようなもの」と解釈し、監督から申し出があり、審判員が認めたものに限って許可するとしています。

■ 8.05(d)[原注]に追加

投手が走者のいない塁へ送球したり、送球するまねをした場合、審判員は、それが必要なプレイかどうかを、走者がその塁に進もうとしたか、あるいはその意図が見られたかで判断する。

昨年、三塁への偽投が禁止されました。そして、今回、「必要なプレイ」とはどんな場合かが明示されました。それは、走者に進塁の行為があったと審判員が判断した場合に「必要なプレイ」とみなすということです。では、「その意図が見られた」とは、どういう場合を言うのでしょうか。あくまで審判員の判断ですが、一つの目安として走者が塁間の半分を越えて、走った、進もうとしたとき、と判断してよいでしょう。したがって、ただ単にスタートを切っただけという場合は、必要なプレイには該当しません。

たとえば、走者二塁。その走者が三塁に走った、そのため投手は投手板を踏んだまま三塁へ送球した。このプレイは必要なプレイとして認められてきました。このように三塁へ送球してしまえば問題ないのですが、では間に合わないと見て途中で送球するのを止めてしまった(偽投)場合はどうでしょうか。それも昨年までは必要なプレイとして認めてきました。

しかし、今年メジャーのアンパイアキャンプに参加したプロの審判員からびっくりするニュースがもたらされました。つまり、上記の例で言えば、三塁に送球すれば問題ないが、途中で止めれば(偽投)、それはボークとなるとの解釈通知が示されたそうです。三塁への偽投が許されなくなったことによって、三塁と一塁とはまったく同じ取り扱いがされるということです。投手板上から偽投が許されるのは二塁だけとなりました。

我が国の規則委員会としては急なことではありましたがこれまでの解釈を上記のように改め、メジャーの解釈にフォローすることにしました。したがって、「野球審判員マニュアル」の90ページ下から3行目の「送球するまねをする」は削除、そして次ページの表の1、3および7はボークとなると改正されますのでご注意ください。

■ 9.02(c)[原注2]の3段目に次を追加

監督または捕手からの要請は、投手が打者へ次の1球を投じるまで、または、たとえ投球しなくてもその前にプレイをしたりプレイを企てるまでに行わなければならない。イニングの表または裏が終わったときの要請は、守備側チームのすべての内野手がフェア地域を去るまでに行わなければならない。

ハーフスイングの要請の期限を、アピールの規定に合わせ、明記したものです。ここで誤解のないよう一つ確認しておきます。投球に続いて、たとえば、捕手が盗塁を刺そうとして二塁に送球したとか、あるいは飛び出した走者を刺そうとして塁に送球するプレイは、一連のプレイだから消滅のプレイには当たらず、その後にチェックスイングの要請をすることは許されます。しかし、ボールが一旦投手に戻り、投手がプレイをしてしまえば、もうチェックスイングの要請はできません。

【規則適用上の解釈】

以上で改正規則の説明は終わりますが、昨年度、規則委員会で議論された中から、規則適用上の解釈について3点紹介しておきますので参考にしてください。

◆ 悪送球が野手の手を離れたときの走者の位置について

事例: 1アウト、走者一・二塁。二塁走者がけん制で誘い出され、二・三塁間でランダウンになった。その間、一塁走者は二塁に達していた。その後、ランダウンプレイにおいて、二塁手からの送球が悪送球となってボールデッドの個所に入ってしまった。この場合、一塁走者はどこまで進塁できるか(7.05(g))。

――― 規則7.05(g)は、次のように規定しています。「審判員は2個の進塁を許すにあたって、・・・その他の場合は、悪送球が野手の手を離れたときの各走者の位置を基準として定める。」

ここで問題となるのが「走者の位置」をどう読むかということです。規則委員会でも大いに議論になりました。我が国では、1980年のプロアマ合同野球規則委員会で、「走者の位置とは文字通り各走者がそのとき立っていたところ」との解釈をとっており、それを継承しています。

したがって、上記の事例で言えば、二塁に達していた一塁走者も、二塁から二つで、本塁が与えられるということになります。

このときも議論は二分され、米国規則委員会の回答である、文字通り走者が立っていたところを支持する委員と、その年に来日したメジャーの審判員個人の見解である、一塁走者には二塁の占有権はないから彼のオリジナルの塁である一塁から二つで三塁までを支持する委員とで紛糾しましたが、最終的には米国規則委員会の回答を尊重して、「走者が立っていたところ」を結論とした経緯があります。

昨年度、我が国規則委員会でも再び同じような議論が蒸し返されました。反対意見はやはり一塁走者には二塁の占有権はないというものです。また、米国の元マニュアル編集委員に聞いても、彼の回答は、二塁の占有権はないから三塁までしか行けない、これは[原注1]の「ときによっては、走者に2個の塁が与えられないこともある。」に該当する、というものでした。

しかし、納得がいかない点が残りました。それは、進塁の基準に占有権云々という考え方はどこにも明記されていないということと、[原注1]に該当すると言ってもこの点も曖昧だし説得力に欠けるのではということです。

そのため、最終的には規則委員会としてはこれまでの解釈を踏襲する、つまり走者が立っていたところという解釈を継続することにしました。

◆ ボーク後のタイムについて

事例:ボーク後の投球または送球を捕手または野手がはじいた場合、どの時点でタイムをかけるのか。

――― ボーク後の投球または送球を捕手または野手が前にこぼした、あるいははじいたがすぐ拾った、こういう場合は「捕球した」と同じ扱いでよいのではないかという考えもあります。しかし、「すぐ拾った」というのはどの程度を言うのかという議論がまた出てきます。実際どこまでか、一線を引くことは大変難しいと考えます。

ボーク後に、タイムをかけるときは、投球または送球が捕球されたとき、あるいはすべてのプレイが止まったときと理解されています。ところが事例のように、はじいた、こぼしたというのが「捕球」に当たらないことは明白です。こぼして、すぐ拾ったという場合は、捕球と同じ扱いで良いのではないかという意見もありますが、しかし、走者は、ボーク後の投球または送球が悪送球になった場合、

自分のリスクでアウトを賭して余塁を奪うことができます。その可能性が残されている限りプレイは続けられねばならないと考えます。

したがって、規則委員会では次のような結論を出しました。

「ボーク後の投球または送球が、野手によって第一動作で捕球されない限りインプレイの状態を続け、すべてのプレイが止まった時点または走者が余塁を奪いそうにないと審判員が判断した時点で、審判員はタイムをかけてプレイを止めボーク後の処置をとる。ただし、野手がボールをすぐ拾い上げ、かつ走者に全く進塁の動作が見られないと審判員が判断したとき、および単独走者三塁でランダウンプレイになったときは、その時点でタイムをかけプレイを止める。」

◆ 監督またはコーチが投手のもと(マウンド)へ行く制限について

監督またはコーチがマウンドに行く回数のカウントの仕方については、やや曖昧な部分があったり、国際大会とは違った行動が我が国で見られました。そのため、国際基準に合わせると同時に、時間短縮という点も考慮して、プロアマ共同で回数の考え方について次の通り明確化し、周知徹底のためアマチュア野球規則委員会から各団体に通達を平成27年2月10日付けで出状しました。

監督またはコーチが投手のもと(マウンド)へ行く制限について

1. 監督またはコーチがファウルラインを越えて投手のもと(マウンド)へ行った場合は必ず1回に数えられる規則である。

2. イニングの途中で、監督またはコーチが投手のもとへ行き、投手交代をする場合:新しい投手がマウンドに到着し、その投手がウォームアップを始めたならば、その監督またはコーチはベンチに戻る。もし、そのまま(マウンドに)留まっていた場合には「一度」に数えられる。

3. 新しいイニングの初めに監督またはコーチがマウンドに行った場合には、「一度」に数えられる。

4. 球審(審判員)は、監督またはコーチに投手のもと(マウンド)へ行った回数を知らせる。

- 例えば -

・イニングの初めに監督またはコーチがマウンド行って新しく交代した投手を待ち(1回)、さらにその投手がウォームアップを始めてもマウンドに留まっていれば(1回)となり、合計2回となって、

8.06(b)に抵触し、その投手は自動的に試合から退くことになってしまいます。これでは、まだ1球も投げないうちに退くことになりますので、この場合は、その打者がアウトになるか、走者になるまで投球し、その後に退くことになります。

しかし、こんな事態を看過しないように、審判員は投手のウォームアップが始まったら監督またはコーチにベンチに下がってください、このままそこにいるともう1回となりますよと注意してあげることをお勧めします。もちろん監督またはコーチが不注意にマウンドに行かないことが一番です。

また、チェンジになったら野手は試合球をマウンドに置くか、転がすようにしてください。

最後に、「投球当時」の解釈について、長年、我が国では『オン・ザ・ラバー』の解釈をとってきましたが、国際基準およびプロとは異なるため、「投手が投球動作を開始したとき」に変更する予定です。ただし、実施は、混乱を避けるため、今年1年間は猶予期間とし、2016年度からの実施を考えていますのでお含み置きください。