2007年度改正規則解説
~改正理由と適用上の解釈について~
33ヵ所におよぶ大改正
日本野球規則委員会は、去る1月29日、今年度の改正規則を発表しました。それは、近年例を見ないほどの大改正となりました。その理由は、我が国の野球規則の原典である米国の『official Baseball Rules』が、それこそ20年ぶりに大改正が行われたためです。それまで米・規則委員会はほとんど睡眠状態で、毎年“no change”の状態で、今回、その反動が一気に来た感がします。
この大改正のねらいは、主として
1.規則のあいまいさ、冗長さ、重複をなくし、できるだけ分かりやすくすること
2.実状に即した規則・解釈に変えること
そして、今回の大目玉である
3.スピードアップの厳格化です。
実は2006年の『official Baseball Rules』はすでに改正されておりましたが、大リーグ選手会の承認が得られていない状態で、大リーグでの実施は先延ばしとなっていました。
我が国の規則委員会では、1年間かけて改正規則の調査・研究を進め、米・規則委員会に何度も照会し、その理解に努めてきました。そして、33力所におよぶ大改正に踏み切りました。誌面スペースの関係で、その中からプレーイングルールを中心に解説しますが、大きくはスピードアップに関する改正、投手に関する改正、およびその他の改正に分けられます。
(1)規則三・○一(f)の追加、規則八・○二(a)【原注】の最初の2行を削除
(2)規則五・一○(f)【注】の追加、規則六・〇五(a)【原注】および【注】の追加、規則七・○四(c)の改正および【注】の追加
(3)規則六・○二(c)の改正および【原注】の追加
(4)規則六・○五(k)【原注】の追加
(5)規則六・○九(b)【原注】の改正、規則七・○八(a)【原注】の最後の3行および【付記】を削除
(6)規則七・○五(j)の追加、規則七・○五(e)【注二】の削除
(7)規則八・○一(a)(b)の改正、アマ【注】の挿入
(8)規則八・○四の改正
では、以上8項目に絞って改正理由の解説をしていきます。
■三・〇一(f)の追加
(f)球審は、試合開始前に公認ロージンバッグが投手板の後方に置かれていることを確認しなければならない。
規則三・〇一は審判員が試合前に行う仕事を規定しているわけですが、従来八・○二(a)【原注】で触れられていたロージンバッグの確認を、三・○一に移し、球審の仕事としてはっきりさせたということです。ここで注意してほしいのは、ロージンバッグが「投手板の後方に置かれている」ことを確認せよといっています。よく投手板の横、あるいはすぐ後ろに置いて「一球」投げるたびにロージンバッグを触り、投手によっては手のひらに乗せてポンポンとお手玉する人もいます。もう癖になっているのでしょうが、これは試合進行の妨げになります。また、消費も激しく、ロージンバッグをもっと大事にしてほしいと思います。
「投手板の後方」というのは、マウンドの勾配を下りたところで、打者席から見えないところと考えてください。つまり、マウンドを下りて、必要もないのにいちいちロージンバックを触りにいくとそれだけ余分な時間がかかるので、それはやめて、規則八・○四にある通り、捕手から返球を受けた投手は、ただちに投手板を踏んで、投球位置につくようにとの趣旨です。細かいようですが、こんなところにもスピードアップが求められているわけです。
■六・〇五(a)【原注】および【注】の追加
今度の改正では、ダッグアウト内での捕球は認めないとなりました。これは、プレーヤーにとって危険だからという理由です。ダッグアウトというのはグラウンド面より一段と低く設置されており、一方、ベンチはグラウンドと同一面にある、選手などが入っていなければならない施設のことで、厳密には両者には違いがありますが、以下、同義語として使うことにします。
ご承知の通り、いままでダッグアウト内でも捕球は認められており、例えばファウルフライを捕手が追っていき、ダッグアウトの中へ入り込んで捕球することも認められていました。正規のキャッチでインプレイですから、そこから塁へ送球することも可能でした。ダッグアウトの中で正規のキャッチの後、倒れ込んだり、倒れたりすればボールデッドとなって、塁上の走者には一個の塁が与えられました。
しかしながら、今度の改正で次のようになりました。
【原注】野手は捕球するためにダッグアウトの中に手を差し伸べることはできるが、足を踏み込むことはできない。(足を踏み込まずに)野手がボールを確捕すれば、それは正規の捕球となる。ダッグアウトまたはボールデッドの個所(たとえばスタンド)に近づいてファウル飛球を捕らえるためには、野手はグラウンド(ダッグアウトの縁を含む)上または上方に片足または両足を置いておかなければならず、またいずれの足もダッグアウトの中またはボールデッドの個所の中に置いてはならない。正規の捕球の後、野手がダッグアウトまたはボールデッドの個所に倒れ込まない限り、ボールインプレイである。走者については七・○四(C)【原注】参照。
【注】我が国では、正規の捕球の後、野手がダッグアウトまたはボールデッドの個所に踏み込んでしまえば、ボールデッドとする。
以上の通り、今年からはダッグアウトの中に踏み込むことはできなくなり、野手はいずれの足もダッグアウトの床面に置いてはならないと変わりました。
表 六・〇五(a)現行と改定後の取り扱い方
これまで同じボールデッドの個所でもダッグアウトだけが上の表の通り他と異なる取り扱いをされていましたが、今回、ダッグアウト内での捕球を認めないと改正するのであれば、取り扱いの違いをなくし、すべてボールデッドの個所の取り扱いを同一にしてはどうかと日本側から米・規則委員会に提案をしました。
しかし、残念ながら日本側の提案は採用に至らず、規則改正後もダッグアウトとそれ以外の
ボールデッドの個所とでは対応に違いが残ることになりました。このため、日本では、ダッグアウトを含むボールデッドの個所はすべて同一の取り扱いにした方が分かりやすいとの判断に立ち、上記の通り「我が国では、・・・・・」との日本注を入れることにしました。
したがって、日本では、グラウンド上で正規の捕球の後、ダッグアウト、スタンド、カメラマン席等ボールデッドの個所に一歩でも踏み込んでしまえば、倒れなくても(倒れ込まなくても)、ボールデッドになって、走者には一個の塁が与えられることになります。
ここで注意していただきたいのは、アマチュアがやる球場というのは、プロ野球の試合が行われる球場のように、皆立派でダッグアウトがはっきりつくられているとは限りません。言うまでもなく、グラウンドと同一面で、長いすが置いてあるだけというのが大半です。そこでどうするかということですが、アマチュア野球では、このように球場の施設が区々ですから、どこからをダッグアウトとするか、どこからをボールデッドにするか、それぞれの団体、または球場に決定を委ねることにしました。つまり、グラウンドルールで対応していこうということです。
なお、この規則の改正の趣旨は、そもそもプレーヤーの安全ということですから、野手がダッグアウト内のいすに手をついたり、ダッグアウト内のプレーヤーに体を支えられて捕球しても(いずれも両足はグラウンドの上に残っている)、それは正規のキャッチでインプレイとします。ただし、グラウンド上で捕球後、両手をダッグアウト内の床面に着けばそれは倒れたとみなされ、ボールデッドとなります。
■六・〇二(c)の改正
(c)打者が、バッタースボックス内で打撃姿勢をとろうとしなかった場合、球審はストライクを宣告する。この場合はボールデッドとなり、いずれの走者も進塁できない。
このペナルティの後、打者が正しい姿勢をとれば、その後の投球は、その投球によってボールまたはストライクがカウントされる。打者が、このようなストライクを三回宣告されるまでに、打撃姿勢をとらなかったときは、アウトが宣告される。
【原注】球審は、本項により打者にストライクを宣告した後、再びストライクを宣告するまでに、打者が正しい打撃姿勢をとるための適宜な時間を認める。
打者の義務に関するところですが、打者が、例えば判定が不服で、あるいはサイン交換が異常に長くて、球審の督促にもかかわらずなかなか打撃姿勢をとろうとしなかった場合、球審はこれまでのように投手に投球を命じることもなく、自動的にストライクを宣告できるように改正になりました。これもスピードアップ関連です。
規則では、打者は理由なくして打者席を出てはいけない、とも規定しています。一球一球、打者席を出てサインを見たり、呼吸を整えたり?する打者がいますが、これもやってはいけないことです。サインを見る際には、必ず片方の足は打者席内に残してサインを見るように習慣付けてほしいと思います。
マイナーリーグでは、特別の場合を除いては打者席を離れてはいけないと細かく規定しています。試合のスピードアップを推し進めるには、投手だけでなく打者の協力も必要で、今回の規則改正では、投手、打者それぞれに従来よりさらに厳しい無駄の排除を求めています。
ところで、ネクストバッターズサークル、次打者席は何のためにあるのでしょうか。規則では、「両チームのプレーヤー及び控えのプレーヤーは、実際に競技に携わっているか、競技に出る準備をしているか、あるいは一塁または三塁のべ一スコーチに出ている場合を除いて、そのチームのベンチに入っていなければならない」(規則三・一七)とあります。
つまり、認められたプレーヤー以外は試合中、ベンチから出てはならないと規定しています。その認められた一人が次打者で、次打者は定められた場所である次打者席で待機しな
ければなりません。なぜ、そうしたのか。それは、スピードアップのためです。次打者がいちいちベンチから打者席に向かったのでは時間がかかってしまう、だから待機場所を設けてすぐ打者席に入れるようにしたわけです。このことから、次打者は、前の打者がアウトになったり、一塁に到達したら、あるいはイニングの初めであれば球審が“ワンモアピッチ!(あと1球!)”と投手に告げたら、すぐに打者席に入る行動を起こさねばなりません。
■六・〇五(k)【原注】の追加
【原注】スリーフットレーンを示すラインはそのレーンの一部であり、打者走者は両足をスリーフットレーンの中もしくはスリーフットレーンのライン上に置かなければならない。
一塁に対する守備が行われているとき、本塁一塁間の後半を走るに際して、打者がスリーフットラインの外側(向かって右側)、またはファウルラインの内側(向かって左側)を走って、一塁への送球を捕えようとする野手の動作を妨げたと審判員が認めた場合、打者アウトとなります。では、ライン上はどうなのかとか、ライン上に右足が乗っていた場合や左足が乗っていた場合は? とか、疑問がありましたが、今回の改正でその解釈が明確になりました。
つまり、ラインはスリーフットレーンを構成する一部であること、また、打者走者は両足をスリーフットレーンの中、もしくはスリーフットレーンのライン上に置かなければならないことが【原注】で明記されましたので、打者走者の左足がライン上にあるときに送球が打者走者に触れても妨害とはなりませんが、右足がライン上の場合は妨害とみなされるということになります。したがって、打者走者は本塁一塁間後半を走る場合には、常日ごろからファウルラインの右側(ライン上を含む)を走るように心掛けることが必要です。
■六・〇九(b)【原注】の改正
【原注】第三ストライクと宣告されただけで、まだアウトになっていない打者が、気がつかずに、一塁に向かおうとしなかった場合、その打者は“ホームプレートを囲む土の部分”を出たらただちにアウトが宣告される。
これもスピードアップに関連する改正で、大きな改正の一つです。
三振振り逃げのケースを想定してください。例えば、スリーストライク目のボールを捕手が落としていた。しかし、打者は気付かずにベンチに向かいかけたら、ベンチから一塁へ走れ、走れと言われて、慌てて一塁へ打者が走る。
従来は、第三ストライクと宣告されただけで、まだアウトになっていない打者が、ベンチ、または守備位置に向かっても、途中から気が付いて一塁に向かうことは許されており、守備側がこの打者をアウトにするには、打者が一塁に触れる前にその身体または一塁に触球しなければならない、しかし、その打者がダッグアウトまたはダッグアウトのステップに達した後には、一塁に向かうことが許されないと規定されていました。
したがって、打者が途中から気が付いて一塁に向かうかもしれないので、守備側にとっては一塁に送球するとか打者の行動を観察するとかの“余分の”時間が生じていました。
そのため今回の改正では、その打者が気が付かずに(一塁に向かう意思がないと判断)“ホームプレートを囲む土の部分”(“ダートサークル”と呼ぶ)を出ればただちにアウトを宣告できるようになりました。特に、塁上に走者がいるときには、次に起こり得るプレイを想定して、早く処置する(打者をアウト)必要があるので、守備側にとってはやりやすくなったと考えられます。攻撃側の気が付かないというボーンヘッドまで救済する必要はない、といった考えも働いたと思われます。
その打者が気が付かずにというのは、もちろん、一塁に向かう意思がないと球審が判断したときで、例えば、打者が防具をはずそうとしている場合などは、ダートサークルを出たからといってアウトにできないことは言うまでもありません。このように、実務上は、ダートサークルを一歩出たから、半歩出たから、ただちにアウトを濫用するのではなく、打者が“気付かずに”ベンチに向かうそぶりを見せたとか、捕手のタックを避ける行為があったとか、その他一塁へ向かう意思がないと球審が判断したときにアウトを宣告するという趣旨です。
問題は、“ダートサークル”です。ダッグアウトの問題と同様、“ダートサークル”、つまり、芝生と区切られたホームプレートを囲む土の部分がはっきりしているグラウンドは、プロ野球が使用する球場と違って、アマチュア野球の場合、ほとんどないということです。
ちなみに、“ダートサークル”というのは、規則書の野球競技場区画線(1)に記載の通り、直径26フィート(7㍍92.5㌢)の円です。
では、アマチュア野球ではどう対処していくかということですが、日本アマチュア野球規則委員会で検討した結果、今回の改正の趣旨を尊重し、改正を受け入れ、“ダートサークル“については、一律に取り決めるのも難しいため、ラインを引くなり、球審の判断に委ねるなり、各団体で対応することに決定しました。
参考までに、甲子園の高校野球大会やリトルシニアリーグではラインを引く方針です。
サークルを描く場合、上の図のように描くのが望ましいと考えます。
■七・〇五(j)の追加
(j)一個の塁が与えられる場合―――野手が、帽子、マスク、その他着衣の一部を、本来つけている個所から離して、投球に故意に触れさせた場合。
この際はボールインプレイで、ボールに触れたときの走者の位置を基準に一個の塁が与えられる。
本来、安全進塁権の個所にこの一個の進塁があってもおかしくないのですが、なぜか規定が漏れていました。改正規則では、野手が帽子、マスク、その他着衣の一部を、本来つけている個所から離して、投球に故意に触れさせた場合、1個の塁が与えられるとなりました。
このプレイが、実際に米・大リーグであったそうです。あのピアザ捕手が投球をはじいて、それをマスクで拾い上げようとした。それが契機となって、この規則を明記すべしとなったわけです。
この件に関連して、こんな裏話があります。日本側から米・規則委員会に、なぜミットを除いたのかと質問したところ、答えは、そんなプレイは見たこともないし、これからもあり得ないと一笑に付されてしまいました。
投球に対しては、このようなケースでは一個の進塁と明確になりましたので、現行七・○五(e)【注二】のうち、少なくとも「投球」に対する説明は不要となり、また「送球」に対しては(d)(e)項に規定されていることから、【注二】全文を削除することにしました。
したがって、「投球」に対しては一個、「送球」に対しては二個となります。
■八・〇一(a)(b)の改正、アマ注の挿入
大改正です。投手に関して、今回、次の3点が改正、もしくは検討課題となりました。
1.投手の軸足の位置の制限の緩和
2.投手の自由な足の位置の制限の廃止
3.走者がいないときのセットポジションでは必ずしも完全静止は必要ない
まず、第1点目の投手の軸足の位置ですが、現行ではワインドアップポジションの場合、「投手板の側方にはみ出さないように、全部投手板の上に置くか、投手板の前縁に触れて置き」、そしてセットポジションの場合、「投手板の側方にはみ出さないように、全部投手板の上に置くか、投手板の前縁にピッタリと離れないようにつけて置き」と制限されています。
それが今回の改正では、軸足は投手板に触れていればよいことになりました。つまり、投手板のどこでも、どんな形でもよいからとにかく軸足が投手板に触れていればよいということです。
この改正の背景には、米・大リーグの実態がかなり甘めになっていること、そして、軸足の制限を緩和してもワインドアップで投げるのかセットで投げるのか、それは打者および走者にとっても容易に見分けができるので問題ないとの判断があったと推測されます。
次に、第2点目の自由な足の位置の制限廃止ですが、これは改正ではなく、従来から原文では自由な足の位置については制限はなく、文字どおり“other foot free”でした。我が国だけは、1964年から現在に至るまで、自由な足の置き方についても、ワインドアップの場合は、「他の足は、投手板の上に置くか、投手板の後縁およびその延長線より後方に置く」、そして、セットポジションの場合は、「他の足を投手板の前縁およびその延長線より前方に置いて」と制限を設けてきました。
そこで、今回の軸足の緩和をとらえて、自由な足の位置についても原文通りとするかどうか、規則委員会で検討しました。プロ野球では、外国人投手はワインドアップポジションで投げる際、自由な足が投手板の側方に置かれているのをテレビ等で目にしたことがあると思います。プロ野球では、外国人投手に限って、自由な足の置き方については黙認をしてきました。したがって、プロ野球では、軸足の位置、自由な足の位置について原文通り変更することに異論はなく、今回の規則の改正をすんなりと受け入れました。
しかしながら、アマチュア野球の場合は簡単にはいきません。少年野球、軟式野球から社会人野球まで、その底辺は広く、また、野球人口も相当なもので、一気に足の置き方を変えるのはあまりに激変過ぎて、投手のマナーは大いに乱れ、プレーヤー自身を初め、審判員を含む指導者側にとっても混乱を極めることが懸念されたことから、アマチュア野球の場合は、軸足、自由な足、いずれもその置き方については、現行通りの規定を踏襲することにしました。
このように、投手の足の置き方についてはプロとアマで見解が分かれ、困ったのは規則書をどうするかということでした。日本規則委員会の方針はできるだけ原文に忠実にということであり、プロ側もそれを主張してきました。一方、アマ側はその方針には変わりないが、圧倒的に底辺の広いアマに配慮して現行通りの条文を掲載し、そこに「我が国のプロ野球では」との【注】を入れて対応してほしいと提案しました。
しかし、なかなか合意に至らず、結局アマ側が妥協した格好で、現行通りの規定をアマ注として入れることで落着しました。
(a)【注一】アマチュア野球では、投手の軸足および自由な足に関し、次のとおりとする。
(1)投手は、打者に面して立ち、その軸足は(投手板の側方にはみ出さないように)全部投手板の上に置くか、投手板の前縁に触れて置き、他の足は、投手板の上に置くか、投手板の後縁およびその延長線より後方に置く。
(2)投手が軸足の全部を投手板の上に置くか、投手板の側方にはみ出さないようにその前縁にピッタリと触れて置き、他の足を投手板の上か、投手板の後縁およびその延長線より後方に置いてボールを両手で身体の前方に保持すれば、ワインドアップポジションをとったものとみなされる。
(3)投手は軸足でない足(自由な足)を投手板から離して置くときは、投手板の後縁とその延長線の後方に置くことを許している。ただし、投手板の両横に置いてはならない。
投手は自由な足を一歩後方に引いてから一歩踏み出すことは許されるが、投手板の両横、すなわち、一塁側または三塁側へ踏み出すことは許されない。
(b)【注】アマチュア野球では、投手の軸足および自由な足に関し、次のとおりとする。
(1)投手は、打者に面して立ち、その軸足は(投手板の側方にはみ出さないように)全部投手板の上に置くか、投手板の前縁にピッタリと離れないようにつけて置き、他の足を投手板の前縁およびその延長線より前方に置いて、ボールを両手で身体の前方に保持し、完全に動作を静止する。
(2)投手は、軸足を投手板からはみ出すことなくその全部を投手板の上に置くか、投手板の前縁にピッタリと離れないようにつけて置かなければならない。軸足の横を投手板にわずかに触れておいて、投手板の端からはみ出して投球することは許されない。
【原注】走者が塁にいない場合、セットポジションをとった投手は、必ずしも完全静止をする必要はない。
しかしながら、投手が打者のすきをついて意図的に投球したと審判員が判断すれば、クィックピッチとみなされ、ボールが宣告される。八・○五(e)【原注】参照。
【注一】 我が国では、本項【原注】の前段は適用しない。
このアマ注については、「当分の間」という理解をしていますが、いつ【注】をはずしてプロ野球と同じにするかは、今後、アマチュア規則委員会で検討していく予定です。
第3点目の、走者なしで投手がセットポジションをとったとき、必ずしも完全静止の必要はないと改正されましたが、これも実態に合わせた改正といえます。厳密にはセットポジションですから、規則上は完全静止しなければならなかったわけです。しかし、大リーグでは、走者がいない場合だから緩めてもいいじゃないかということで、改正になりました。
しかし、アマチュア規則委員会では、この点についても反対の立場をとり、日本規則委員会に臨みました。プロ側も、止まっても止まらなくてもいいとなると、投手が作為的に止めたり止めなかったりして投球することが予想され、そうなると打者も戸惑うので、認めるべきではないとの意見で、プロ・アマとも同じ考えに立ち、「我が国では、本項【原注】の前段は連用しない。」との【注】を挿入するとの結論に至りました。
投球姿勢が緩和されてもフェアな精神が保たれるならいいのですが、ややもすれば、その結果、法の抜け穴を探して、ずるい、アンフェアな野球が出てくることが危ぐされます。
そういうことのないよう、アマチュア野球が常に健全に発展していくことを祈念します。
■八・〇四の改正
八・○四の「二○秒以内」を「一二秒以内」に改め、3行目に次を追加する。
一二秒の計測は、投手がボールを所持し、打者がバッタースボックスに入り、投手に面したときから始まり、ボールが投手の手から離れたときに終わる。
スピードアップの締めくくりが、この八・○四の改正です。
これまで、投手はボールを受けてから「20秒以内」に投げなさいとあったのが、「12秒以内」に変わりました。この点からも、いまスピードアップが大リーグを含めて世界中の野球の最大の関心事であるということがお分かりいただけると思います。一瞬、エーッと驚かれるかもしれませんが、実は計時の仕方も変更になっています。つまり、「ボールを受けてから」が、今度は「投手がボールを保持し、打者が打撃姿勢をとってから」、すなわち「両者が正対してから」時間を計るというように変わっています。
往々にして、投手は投手板を踏んで投球姿勢に入っているのに、まだ打者が打者席に入っていない、あるいは、入っていてもなかなか打撃姿勢をとらないとか、逆に、打者は構えに入っているのに投手がロージンバッグを何回も触ったりしてなかなか投手板を踏もうとしないといった光景が見られました。
したがって、今後は「12秒以内」に改正になった趣旨を選手の皆さんもよく理解するとともに、球審は打者に対しては早く打撃姿勢をとるよう、また、投手に対しては早く投球姿勢に入るよう、つまり、少しでも早く両者が正対して“戦う”態勢に入るよう行動することが必要です。
いわゆる好投手といわれる投手ほどテンポ良く、社会人野球の場合、大体6~7秒ぐらいで投げており、平均すると走者がいないときで13秒前後です。高校野球の場合は、もちろん、こんなにかかっていません。見る側にとってもテンポの良い、リズムの良いゲームは見ていても楽しいものです。
■規則適用上の解釈の確認
次に、プロ・アマ合同規則委員会で確認された規則適用上の解釈について、2点説明します。
(1)打球または送球がプレーヤーのユニフォームの中に入り込んでしまった場合の処置について昨シーズン、ヤクルト対阪神戦で、2日続けて打球が投手のユニフォームに入るという珍事がありました。以前、春の高校野球選抜大会でもファウル飛球を捕手がはじき、再び捕球しようとしたボールが捕手のプロテクターと体の間に入ってしまったというプレイがありました。
今後、このようなプレイが発生した場合、次の通りの処置をすることが確認されました。
「打球または送球が偶然にプレーヤーまたはコーチのユニフォームの中に入り込んでしまった場合(あるいは捕手のマスクまたは用具に挟まって止まった場合)、審判員はタイムを宣告し、ボールデッドにして打者には一塁を与え、審判員の判断ですべての走者に対して塁にとどめるか、進塁を認める。このプレイで走者がアウトにされることはない。なお、送球によってこのような事態が生じた場合、進塁させる基準は、送球が(最後の)野手の手から離れたときとする」
(2)ボールが守備側プレーヤーのグラブに挟まったケースについて
例えば、打球を捕った投手がボールをグラブから取り出せず、グラブに挟まったまま一塁にトスした場合、従来アマチュア野球では、「正規の捕球とはみなさない」との解釈をとってきました。
しかし、プロ側ならびにMLBの解釈を確認の結果、アマでも今後次の通りの解釈に変更することにしました。
「打球または送球が野手のグラブに挟まった場合、ボールは生きており、インプレイである。野手はグラブにライブのボールが挟まったまま、そのグラブを投げることは正規のプレイである。ボールが挟まったグラブを捕った野手は規則どおりにボールを所持したとみなされる。たとえば、野手は、ボールが挟まったグラブを持って走者または塁に触球することができる。これは正規のプレイである」
*
以上で2007年度の規則改正の解説を終わります。誌面の関係で項目を絞りましたが、新しい規則書を入手されたら、ぜひその他の改正個所も精読されることをお勧めします。
今年は、2008年の北京オリンピックに向けてアジア地区予選が開催されます。昨年のWBCの感動を再び私たちに呼び起こしてくれることを願っています。
日本野球規則委員会委員 麻生紘二