2010年度改正規則解説
-改正理由と適用上の解釈について-
日本野球規則委員会委員 麻生紘二

日本野球規則委員会は、 去る1月28日、今年度の規則改正を発表しました。ただ、今年度も原文のOfficial Baseball Rulesの改正が遅れたため、昨年度すでに改正済みになっていたものを、わが国の規則書に反映させたに留まりました。

今年度は以下の通り、12ヵ所の改正となりましたが、目新しい規則としては、両投げ投手の規定が追加されたことです。
(1) 2.44 (d) の改正
(2) 3.10 (c) および同 [原注] の削除
(3) 4.01 (d) の改正
(4) 4.01 (d) [原注] の追加
(5) 4.12 (d) 削除
(6) 6.02 (d) (1) [原注] の改正
(7) 6.05 (i) の改正
(8) 7.09 (b) の改正
(9) 7.00補則(A)(e)(5)の改正
(10) 8.01 (f) の追加
(11) 8.01 (a) (2)~(6) ペナルティ (a) の改正
(12) 8.02 (b) の改正
以下、改正理由について解説をしていきますが、 上記の(2)~(5)は、プレイの中断に関する条文の再整理に伴う改正ですので説明を省略します。

■2.44(d)の改正
観衆の妨害 一一観衆がスタンドから乗り出したり、または競技場内に入って、(1)インプレのボールに触れた場合、(2)インプレイのボールを守備しようとしている野手に触れたり、じゃまをした場合に起こる。

これまで、観衆の妨害は、観衆がインプレイのボールに触れた場合と定義されていましたが、 その説明不足を補って、今回の改正で守備しようとしている野手を妨害した場合も含むと明記されま した (関連:規則3.16)。

■6.02 (d) (1) [原注] の改正
冒頭に次の文章が追加されました。
球審は、打者の違反がちょっとした不注意であると判断すれば、その打者のその試合での最初の違反に対しては、自動的にストライクを宣告せずに、警告を与えることもできる。

6.02 (d) は、マイナーリーグにだけ適用されている規則ですが、このように打者が打席を外すことについては大変厳しく対処しています。わが国においても打者が頻繁に打席を外すのが目立ち、それが試合時間の遅延につながっていることはいうまでもありません。わが国のアマチュア野球においても、この6.02 (d)の規定を念頭に置きながら、無駄な時間の排除に向けて、打者に対する指導を継続していきたいと考えています。

■6.05 (i) の改正
打者が、打つか、バントをした後、一塁に走るに当たって、まだファウルと決まらないままファウル地域を動いている打球の進路を、どんな方法であろうとも故意に狂わせた場合。

■7.09 (b) および7.00補則(A)(e)(5)の改正
打者または走者が、まだファウルと決まらないままファウル地域を動いている打球の進路を、どんな方法であろうとも、故意に狂わせた場合。

上記は、いずれも昨年までの 「ファウルボールの進路を」という表現を、正確かつ丁寧に言い換えたものですが、お気付きのように、この表現は1999年まで使われていました。したがって、また元の表現に戻ったということができます。

2000年に改正した際は、原文通りに割り切って 「ファウルボールの進路を」 (the course of a foul ball)と訳しましたが、厳密には規則2.32に基づき、最終的に 「ファウルボール」 と認定されるまでは、 ファウル地域を動いている打球はまだファウルかフェアかは確定していないわけで、表現の仕方としては正確性を欠いていたといえます。ただ、そのことは日本野球規則委員会では承知の上で、あえて簡潔に 「ファウルボールの進路を」とした経緯がありました。

なお、念のため、 「ファウル地域を動いている打球」とは、ゴロの打球だけに限定されず、インフライトの打球を含めた、ファウル地域に打たれたすべての打球が対象となることは言うまでもありません。

また、6.05 (i)は、打者走者の妨害で、ただちにボールデッドとなって打者走者にアウトが宣告されますが、7.09 (b)は、打者に加えて、走者、つまり 「三・本間を走っている走者」が妨害した場合の規定です。この場合の処置について整理しておきますので参考にしてください。

①打者のボールカウントはストライクにカウントする (2ストライク以前)。
②確実に併殺プレイが完成すると審判員が判断した打球 (インフライト)を妨害した場合は、打者と走者の2人にアウトを宣告する (二死以前)。
③打者のボールカウントが2ストライク以後にスクイズプレイやバントが行われ、その打球を妨害した場合は、スリーバント失敗で打者アウト、そして走者には妨害で、アウトが宣告される (二死以前)。
④二死以後に妨害が発生した場合は、ボールカウントに関係なく、打者にアウトを宣告する。

■8.01 (f) の追加
投手は、球審、打者および走者に、投手板に触れる際、どちらかの手にグラブをはめることで、投球する手を明らかにしなければならない。

投手は、打者がアウトになるか、走者になるか、攻守交代になるか、打者に代打が出るか、あるいは投手が負傷するまでは、投球する手を変えることはできない。投手が負傷したために、同一打者の打撃中に投球する手を変えれば、その投手は以降再び投球する手を変えることはできない。 投手が投球する手を変えたときには、準備投球は認められない。

投球する手の変更は、球審にはっきりと示さなければならない。

この新しい規則は、両投げ投手に対する規定です。要約すれば、
1) 投手は、投手板に触れるときに、どちらの手で投げるかを明確にする。それはグラブをはめ た手で判断する。
2) 同一打者の打撃中に、原則投げ手を変えることはできない。
3) 投げ手を変更した際の準備投球は認めない。
ことが規則として明記されました。

わが国でも、1987年に南海ホークスに近田豊年投手が入団し、両投げ投手として話題を呼びました。このときのパ・リーグの規則委員会では、投手は、 「投手板につく前にどちらで投げるかを打者に知らせる」と取り決めたということです。その後、両投げ投手がわが国で登場したというニュース は耳にしておりません。

ところが、2008年に米国・マイナーリーグでパット・ベンディットという両投げ投手が現れ、しかもその投手はこの年ヤンキースが20巡目に指名した選手ということで、大いに注目を集めたそうです。

話題性に拍車をかけたのが、そのデビュー戦で、9回に登板し、二死を取った後に迎えたのが、面白いことにスイッチヒッターだったというのです。 “両投げ投手対両打ち打者の戦い”となりました。

このとき、 打者が左打席に入るのを見て、投手は特注グラブ (指が6本、網が2つ) を右手には
めると、それを見た打者が右打席に移動、すると投手は、今度はグラブを左手にはめる、また打者は……と、 これが延々5分間も繰り返されたそうです。

最後は見かねた球審が両監督と協議の末、 「打者が最初に左右を決める」と裁定し、結局右対右で、 三振でゲームセットとなりました。

その後、 「投手が先に投げ手を決める」ことが大リーグで決められ、この事件が引き金となって、 2009年にOfficial Baseball Rulesに追加され、今年のわが国の規則書にもお目見えとなったという次第です。

その後、この期待されたべンディット投手は、まだメジャーには昇格していないものの、マイナーリーグで抑えとして活躍しているそうです。

■8.01 (a) (2)~(6) ペナルティ (a) の改正
投手はただちに試合から除かれ、自動的に出場停止となる。マイナーリーグでは、自動的に10試合の出場停止となる。

■8.02(b)の改正
本項に違反した投手はただちに試合から除かれる。さらに、その投手は自動的に出場停止となる。 マイナーリーグでは、自動的に10試合の出場停止となる。

投手がボールを傷つけたり、ボールに異物を付けたりすることは、投手の禁止事項ですが、それに違反した場合、マイナーリーグでは10試合の出場停止という厳罰を科すと改められました。マイナーリーグは、メジャーの教育機関の性格を有しており、技術的な問題に加えて、このマイナーでスピー ドアップとかフェアプレイとかマナーとかが教え込まれるようになっています。この点、わが国のプロ 野球の二軍とはいささか性格を異にしています。

ちなみに、アマチュア野球では、本項ペナルティを適用せず、1度警告を発した後 (もちろんボールは交換する)、なおもこのような行為が継続されたときには、その投手を試合から除くとしています。

<規則適用上の解釈とアマ球界の取り組み事項>
改正規則の解説は以上ですが、次に規則適用上の解釈ならびにアマチュア野球界の取り組み事項について述べます。

■7.09(e)について
昨年、 7.09 (e) に 「得点したばかりの走者」 の妨害が追加になったことはご承知の通りです。まずは次の例題2つを見てください。
【例題 1】
一死走者三塁。打者が投手左前に当たり損ねのゴロを打った。投手はそれを捕って本塁に突っ込んできた三塁走者をアウトにしようと本塁に送球した。しかし、走者はうまくスライディングして本塁はセーフ。その後、捕手は一塁へ転送しようとしたが、その走者に足を払われ、投げることができなかった。この場合の審判員の処置は?
【例題 2】
二死走者三塁。上記と同じように、投手は本塁に送球した。セーフ。その後、その走者が捕手の足 を払ったため、捕手は一塁に投げることができなかった。この場合の審判員の処置は?
この2つの例題の違いはお分かりかと思います。 【例題1】は、まさに7.09 (e) の 「得点したばかりの走者」の妨害に当たり、守備の対象になつ た打者走者がアウトを宣告され、得点1、二死走者なしで試合再開となります。

では、 【例題2】の場合はどうでしょう。二死の場合は少し状況が変わってきます。 「本塁を踏んだ三塁走者」は、まだ 「得点したばかりの走者」 とはいえず、正確には 「本塁を踏んだ走者」 または 「仮に得点したばかりの走者」 となります。この場合、厳密にいえば 「得点したばかりの走者の妨害」 ではなく、 「味方のプレーヤーの妨害」 によって、アウトが打者走者に宣告されます。したがって、二死で、打者走者が一塁に達するまでにアウトになれば、規則4.09 [付記] および同(1) によって、 得点は記録されないということになります。もちろん 「仮に得点した走者」 も広義で 「得点したばかりの走者」 に含めて規則を適用してもよいのではとの考え方もあります。

いずれにしても、このケースは、「味方のプレーヤーによる妨害」 または 「(仮に) 得点したばかりの走者の妨害」 によって、打者走者はアウトを宣告され、それが三死に当たるため、三塁走者が本塁に進んでいても、それは得点として認められないとなって、得点0でチェンジとなります。

この規則がなぜ生まれたのか、調べましたら、以前、次のようなプレイがメジャーで起こったそうで、 そのプレイがきっかけになって規則ができたと推測されます。ただ、最近実際にメ ジャーで同じようなプレイがあったのかはまだ確認ができておりません。

1995年6月25日、アストロズとレンジャーズとの試合で、走者一、二塁で打者がレフトにヒット、左翼手からの返球を捕手がこぼし、二塁走者ホームイン。その走者がこぼれたボールを手で動かしてしまった。捕手は、そのボールをつかんで三塁を狙っていた一塁走者を刺そうと三塁に送球、しかしセーフ。球審は、本塁に達した二塁走者がボールに触れたことを妨害とみなし、三塁でセーフとなった一塁走者に妨害によるアウトを宣告した。得点をした走者の妨害は、当時ルールブックには規定されておらず、そのため球審は、『アウトになった走者の妨害』 の規定を参考に、9.01 (c) に基づき、 自己の裁量で判定を下したということであった。
参考まで。

■ミットを動かすなキャンペーン
次に、昨年度アマチュア野球界では、マナーアップ、フェアプレイの両面から 「ミ ットを動かすな」 キャンペーンを展開しました。このキャンペーンの趣旨は広く理解され、まだ完ぺきとはいきませんが、かなり徹底してきたと評価しています。今年度も継続してこの運動に取り組んでまいります。
あらためて、この運動でやめさせようとしている行為を記しておきます。
(1) 捕手が投球を受けたときに意図的にボールをストライクに見せようとミットを動かす行為
(2) 捕手が自分でストライク、ボールを判断するかのように、球審がコールする前にすぐミットを動かして返球態勢に入る行為 (判定するのは球審の仕事です)
(3) 球審のボールの宣告にあたかも抗議するかのように、しばらくミットをその場に置いておく行為

■キャッチャースボックスからでるな
最近目立つのが、捕手がキャッチャースボックスから足を出して構える姿勢です。果たしてこの行為は規則上、問題ないのでしょうか。キャッチャースボックスは、もともと1954年までは図1の通り、三角形でした。

それが、故意四球が多過ぎて野球が面白くない、 試合時間が長引く、打者のバットが到底届かないところに捕手が構えてベースボールが持つ本来の、打って、走るスポーツの醍醐味が損なわれるといった野球ファンの不満を買って、 1955年に今の矩形に改正になり、捕手は狭いところに押し込められる格好となりました。
ちなみに、規則では次のようにうたわれています。
2.17 キャッチャースボックス一一投手が投球するまで、捕手が位置すべき場所である。
4.03 (a) 捕手は、ホームプレートの直後に位置しなければな らない。故意の四球が企図された場合は、ボールが投手の手を離れるまで、捕手はその両足をキャッチャースボックス内に置いておかねばならないが、その他の場合は、捕球またはプレイのためならいつでもその位置を離れてもよい。ペナルティ ボークとなる。
8.05(l)故意四球が企図されたときに、投手がキャッチャースボックスの外にいる捕手に投球した場合。
【注】“キャッチャースボックスの外にいる捕手”とは、捕手がキャッチャースボックス内に両足を入れていないことをいう。したがって、故意四球が企図されたときに限って、ボールが投手の手を離れないうちに捕手が片足でもボックスの外に出しておれば、本項が適用される。

以上のように、故意四球が企図されたときに捕手が片足でもボックスの外に出して構えれば、ボークとなると明記されています。では、故意四球以外の場面では構わないのか、例えば、投手に2ストライクからボ一ル球を投げさせようと極端に捕手が外側に寄って、しかも両足をボックスの外に出して構えることは許されるのか、といった疑問が浮かんできます。

私は、そもそもキャッチャースボックスはなぜ作られているのかということを考えたときに、前述の規則を素直に解釈すれば、捕手の位置する場所を制限しているのだから、常にボールが投手の手を離れるまではこのボックスの中で構えないといけないと思っています。また、打者のバッ トが届かないようなところに構えることを禁止する目的で三角形から現在の矩形に変わったということを併せ考えても、そう言えると思います。打てるところにボールを投げなさいというのが、ベースボールの原点です。

規則4.03では、例えば一塁手が片足をファウル地域に出して構えていれば、球審は一塁手に警告した上でフェア地域に戻し、プレイをかけ直すことになっています。試合開始のとき、捕手を除く すべての野手はフェア地域にいなければならないと規則で決められているのと同様に、捕手はキャッチャースボックス内にいなければいけないと考えます。

故意四球の場合は、違反すればボークとする (もちろん走者が塁にいる場合) とはっきりしていますが、走者がいない場合で故意四球以外のときのペナルティについては、規則書では明確にはなっていません。反則投球としてボールを宣告するという意見もありますが、アマチュア野球では、 今年度は是正のための指導期間と位置付け、足を出して体の大部分をキャッチャースボックスから外に出して構えている捕手がいれば注意指導をしていくことにしました。
この運動は 「正しい野球の推進」のいわば第2弾といってよいと思います。

■ストライク・ボールのカウント方法の変更
突然、プロ野球審判委員会が、今年からカウント方法をストライク・ボールからボール・ストライクに変更することを発表しました。大いに反響を呼びました。

アマチュア野球では、高校野球が1997年の春の選抜大会からボール先行型に踏み切っています。 その後、2度ほどアマチュア規則委員会で変更の話が出ましたが、その都度 「時期尚早」 ということで見送られてきました。実は今年のプロ・アマ合同委員会にもアマ側から提案は投げ掛けていましたが、時間切れで議論に至らなかった経緯がありましたので、プロ側の突然の決定には驚きました。 できたらプロ・アマ一斉に変更の形をとりたかったのですが、それでもプロが勇断してくれたおかげで、アマチュア野球界もすんなりと変更を受け入れることができます。その上、最近は国際大会が増 えたことや、衛星放送でメジャーの試合を見る機会が増えたことで、ボール・ストライクのカウント方法にも耳が慣れ、受け入れの土壌づくりを大いに推進してくれたと思います。

全日本大学野球連盟は2月7日の審判部会で、また日本アマチュア野球規則委員会でも 2月12日の総会でカウント方法を変更することを確認しました。ストライク先行はわが国の文化だといわれてきましたが、これでわが国では、今年から社会人も軟式も含めてプロ・アマ全体がボール先行型に変わることになりました。しばらく戸惑いはあると思いますが、早く国際基準に慣れていただくよう 願っています。

以上で2010年度の規則改正、規則適用上の解釈ならびに今年度の取り組みについての解説を終わります。引き続きマナーのよい、テンポのよい、そして攻撃的な野球の発展に向けて関係者の皆様にご尽力いただくようお願いします。