2006年度 改正規則解説  ~改正理由と適用上の解釈について~

(日本野球規則委員会 麻生紘二)

■ “二段モーション”ついに禁止!!

改正規則の解説に入る前に、喜ばしいニュースを紹介します。1996年以来、アマ側から毎年プロ側に是正方の要請を行ってきた、反則投球(いわゆる“二段モーション”)が、今シーズンからプロでもようやく禁止の措置がとられることになりました。プロ側のご理解と大英断に、心から敬意を表したいと思います。プロ側の心を動かしたのは、何といっても、プロ野球が青少年に与える影響への配慮と国際大会の増加だと考えられます。
昨年2月、日本アマチュア規則委員会は、投球動作の乱れを懸念し、以下のような通達をアマ各団体に出状しました。

「日本アマチュア野球規則委員会の見解:

(1)プロの一部の投手に見られる、手足をブラブラさせたり、ことさら段階をつけて投げる動作は、規則8.01の“中途で止めたり、変更したり”に抵触し、正規の投球とはみなさない。(規則8.01(a)(b)[原注][注一])
(2)規則2.38[注]により反則投球となる。
(3)したがって、塁に走者がいるときはボークとなり、いないときはボールを宣告する。

以上の通り、アマチュア野球では、“natural motion”とは見られない、このような投法を禁止し、今後とも、アマチュア各団体におかれましては、国際化も視野に入れながら、“規則破り”をしようとする投手に対して、正しい、フェアな野球に努めるようご指導いただくと同時に、審判員はかかる疑わしき投球動作に対し厳格に対処されるようお願いいたします。

以下に関連規則を抜粋します。規則書ではわざわざ太字で記されているように、正しい野球、フェアな野球を進めていく上で大変重要な条文です。あらためて、しっかりと熟読ください。

8.01 正規の投球

(a)ワインドアップポジション

打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。

(b)セットポジション

打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。

[注一]本条(a)(b)項でいう、“中途で止めたり、変更したり”とはワインドアップポジションおよび、セットポジションにおいて、投手が投球動作中に、故意に一時停止したり、投球動作をスムーズに行なわずに、ことさらに段階をつけるモーションをしたり、手足をぶらぶらさせて投球することである。

このように規則書では正規の投球とはいかにあるべきか、はっきりと明示してあり、これを守る限り、国際試合でも問題視されることはありません。“natural motion”で投げなさいという趣旨は、そもそも野球は打者の要求するところへ打ちやすいボールを投げる、それを打つ(strike)ところから出発しており、投法で打者を幻惑したり、だまそうとしたりすることは許されない、それがフェアプレイなのです。

プロは、今シーズンは足の問題(止まったり、二度三度揺らす行為)については徹底して取り組むが、腕の問題(ワインドアップモーションを起こしてから、腕の動きが止まったり、ノッキングをしたり)については、打者への影響も小さく、一気に両方を厳格に規則通り適用することはかえって混乱が大きいので、腕については従来通りとし、明らかに打者のタイミングを外す、あるいは本来の投球目的から離脱して著しく停止しない限り、常識の範囲内で処理していくとの方針が出されました。

一方、アマはこれまでも足の動き、腕の動きを問わず、規則通りに対応してきており、前述のプロの方針にかかわらず、日本アマチュア野球規則委員会ではあらためて、規則通りに、投球動作を起こしたならば“中途で止めたり、変更したり”してはいけないことを確認しました。

■ 改正規則2項目を発表

日本野球規則委員会は、去る2月3日、今年度の改正規則を発表しました。今年度は次の通り、規則に関する改正と用具に関する改正の二つです。
(1)規則7.08(g)[注二]の改正
(2)規則1.10(c)[付記][注二]の改正

では、以下に改正理由の解説をしていきます。

7.08(g)[注二]の改正

まず、こんな場面を想定してください。一死走者三塁、どうしても1点欲しいケース、ここでスクイズが行われた。三塁走者は投手の投球動作開始と同時に本塁に走ってきた。投手はスクイズに気付きウエストした。打者は必死になってその球に飛び付き、バットに当てたがファウルとなった。スクイズ失敗。このとき、打者は片足をホームベースの上に置いてボールにバットを当てていた。かつて甲子園で実際にあったプレイです。さて、審判員のあなたはどう処置しますか。

そうですね、このスクイズプレイのように走者が得点しようとしたときと反則打球とが重なった場合、規則7.08(g)[注二]に記載の通り、三塁走者をアウトにして打者はノーカウントで打ち直しでしたね。これが今までの解釈でした。その解釈を、今年度、思い切って変更しました。その理由を以下に説明します。

この[注二]が生まれた背景は、さかのぼること56年前の昭和25年(1950年)に開催された米・クラブチーム(ケープハーツ)と全鐘紡との試合で起きたスクイズプレイでした。球審は三塁走者を生かそうとして打者が反則打球をしたから三塁走者がアウトと判定しましたが、米国チームは反則打球で打者アウトを主張して譲らず、親善試合だったのでひとまず日本側が折れて打者アウト、三塁走者帰塁で試合再開となりました。しかし、試合が終わっても日本側はこの処置に納得せず、米・大リーグの審判員に質問状を出したところ、日本側の結論で正しいとの回答を得て、翌昭和26年にこの[注二]が生まれた経緯があります。

 

わが国は、このようなケースでは、打者が反則行為で捕手の守備を妨害したと解釈し、規則6.06(a)の適用除外例として打者ではなく、守備の対象である三塁走者をアウトにしてきました。

この解釈は、当時の論議は分かりませんが、スクイズの成功がおぼつかないとき、三塁走者を生かそうとして打者が意図的に反則打球を行い、犠牲になってアウトになれば、攻撃側はもう一度スクイズの機会をつかめるではないか、しかしそんなずるい野球は許してはいけない、アンフェアだ、だから守備妨害を適用して、懲罰的に、打者ではなく守備の対象である三塁走者をアウトにすべきだと先達たちは考えた結果だと推測されます。

このように7-08(g)を適用したのは、三塁走者を生かそうとして反則打球を意図的に行うことを防止する、“教育的”なねらいがあったと思われますが、現実は、スクイズプレイの際、打者は必死になってバットにボールを当てようとし、無意識のうちに片足をバッターボックスの外に出していたということが多いのではないでしょうか。意図的かどうかを問わず、守備妨害が適用されてきました。意図的かそうでないか、球審が見分けるのは大変難しいことです。

この日本の解釈が果たして妥当なのか、長い間疑問になっていました。その疑問は、7.08(g)の「打者が本塁における守備側のプレイを妨げた場合」というのは同[注一][注二]の説明のように素直に受け取るべきではないのか、反則打球のケースにまで適用して同[注二]の中の例示に含めるのは無理があるのではないかという意見、反則打球はあくまで打者の反則行為により打者をアウトにすべきであるという意見、そして国際的にも打者をアウトにしているという意見です。

日本野球規則委員会はこうした考えを支持すると同時に、正しい野球もだいぶ浸透し、この立法のねらいももう引っ込めてもよいのではなかろうか、そう判断し、思い切って同[注二]を改正することにしました。大改正と言ってよいでしょう。併せて、できるだけ例外規定をなくし、ルールはシンプルに分かりやすくする、そして国際基準に合った解釈をするという当委員会の方針に沿ったものです。

以上のように、走者が得点しようとしているときと打者の反則打球が重なった場合は、打者を反則打球でアウトにし、走者を三塁に戻して試合再開と変更になります。

参考までに、反則打球とは打者がバッターボックスの外に出てバットにボールを当てた場合のことですが、では走者が得点しようとしたとき、打者が足をバッターボックスの外に出した、しかしバットはボールに当たらなかった、このケースはどうなるでしょう?

この場合、打者が足を外に出したり、何らかの動作で捕手の守備を妨害すれば、7.08(g)により守備の対象である三塁走者がアウトになります。二死のときは打者がアウトになります。

また、走者が本塁に向かってスタートを切っただけの場合とか、一度本塁へは向かったが途中から引き返そうとしている場合には、打者が捕手を妨げることがあっても、本項は適用されず、6.06(c)により、打者が反則行為でアウトになります。ただ離塁しているに過ぎない三塁走者を刺そうとする捕手のプレイを打者が妨げた場合も同様、打者がアウトになります。

ここで誤解しないように整理しますと、走者が得点しようとしたときの打者の守備妨害は7.08(g)により走者がアウト、それ以外の打者の守備妨害は打者がアウトになるということです。

関連して、

・スクイズのケース、打撃を完了して打者から走者になったばかりで、まだアウトにならない打者が妨害を行なったときには、その打者走者がアウトとなり、ボールデッドとなって、三塁走者を投手の投球当時すでに占有していた塁、すなわち三塁へ帰らせる。(7.08(g)[注三]、6.05(g)、7.08(b))

・アウトになったばかりの打者が、味方の走者に対する野手の次の行動を阻止するか、あるいは妨げた場合、その走者はアウトになる。(7.09(f))

もう一つ、前記の改正文をよく見てください。咋年まで7.08(g)[注一][注二]の文中「三塁走者」とあったのを「三塁」の二文字を削除し、「走者」と改正しました。この意味は、「走者が得点しようとしたとき」の「走者」は三塁走者に限定されるものではなく、例えば二塁走者でも投手のワイルドピッチで三塁を回って本塁を突くケースもあるように、“三塁から走ってくる走者”ということで、いずれの走者も対象になり得ることから「走者」としたものです。昨年までの表現ですと、「三塁走者」だけのことを言っていると誤解されるおそれもありました。

1.10(c)[付記][注二]の改正

これはアマチュアだけに認められている接合バットの認可基準を明確にしたもので、「バット内部を加工した」とは、バット内部に詰め物をしたり、バット内部を空洞にしたりすることを意味し、そういうバットは認められません。竹のみ、木片のみまたは竹と木片の接合バットだけが認められるということです。

■「プレイまたはプレイの企て」の解釈

以下は規則改正ではありませんが、規則適用上の解釈の改正について説明します。

すでにご承知のように、2004年に「送球あるいは触球するマネは、プレイの企て、プレイの介在には含まない」と従来の解釈を変更しました。ここで「プレイ」とは、「守備側の野手が、ボールを保持して走者をアウトにしようと実際に行った行為」をいい、“走者をアウトにしようとする守備行為”とは、野手が“実際に”プレイを行ったこと(送球行為、触球行為、触塁行為)と解釈するとしました。分かりやすく言えば、“投げない限り「プレイ」ではない”とシンプルな解釈にプロ・アマとも変えたわけです。

ただし、プロは2.44、7.05(g)、7.10すべて同等にこの解釈を適用するとしましたが、アマは2.44、7.05(g)の「プレイ」の解釈の変更には同意したものの、7.10のアピール権の消滅となる「プレイの企て」とは同一視できないのではないかとの疑義を持ち、7.10については従来通りの解釈とし、この疑問は研究課題としてきました。

(注:従来の解釈の例・・例えば投手が一塁ヘアピールしようとしたが、二塁走者の離塁が大きかったので二塁へけん制(送球するマネだけ)した場合、それは「プレイの企て」となって、一塁へのアピール権は消滅するとの解釈)

その後、プロの意見、MLBアンパイア・マニュアル等を参考にして検討してきた結果、アマチュア規則委員会としても、アピールの際だけ「塁に送球するマネ」を「プレイ(アピール)の企て」とする特別な理由も見当たらないし、「送球または触球するマネ」は“企て”プレイ以前の行為であると解釈すべきではと考え、そして、「プレイの企て」とは、守備側が塁または走者に対する行為を行ったが、悪送球、失策などから最初の目的である“プレイ”を果たすことができなかったときに「プレイを企てた」と解釈することに改めました。これによってアマもプロ同様、2.44、7.05(g)、7.10すべて同等に扱うことになりました。

繰り返しになりますが、「プレイを企てる」とは、プレイを目的とした守備側の行為(アピールのためのプレイ)が、何らかの理由(悪送球となって、それがボールデッドの個所に入ってしまった)で、その「プレイ」を果たすことができなかった場合のことをいうと定義づけしました。

■規則適用上の解釈の確認

もう一つ、プロ・アマ合同委員会で確認されたことがあります。

それは7.09(i)のべースコーチの肉体的援助についてです。塁に複数の走者がいたとき、肉体的援助があったらどうするか。

実際に起きたケースですが、走者三塁で打者が一塁ゴロを打った。一塁ベースの後方でこのゴロを捕った一塁手は、三塁走者が本塁に走ったため、本塁に送球し、三・本間でランダウンプレイとなった。一方、打者走者は一塁手が一塁ベースを踏んで本塁に送球したと思い込み(自分はアウトになった)、ベンチに戻ろうとした。慌てた一塁コーチがベースに就くよう打者走者を押し戻した(肉体的援助があった)。さて、審判員の処置は? 即ボールデッドで打者走者がアウトか?

7.09(i)では、「ベースコーチが、……肉体的に援助したと審判員が認めた場合」、走者アウトとなり、ボールデッドとなる、とあります。では、この事例の場合、三・本間でプレイが行われているにもかかわらず、そのプレイを止めて打者走者をアウトにしてもよいのだろうかと悩みます。

しかし、やはり直接そこでプレイが行われていないのにプレイを止めてしまうのはいかにも不自然だという解釈で一致し、この事例のように、直接プレイが行われていない走者に肉体的援助があった場合、インプレイの状態のままにおき、そこでのプレイが一段落してから肉体的援助があった走者にアウトを宣告することを確認しました(この場合のアンパイアリングとしては、オブストラクションb項と同様、肉体的援助があったことの確認として、塁審は右手でその走者を軽くポイントすることにします)。

言うまでもなく、直接その走者に送球が向かってきているような場合に肉体的援助があれば、例えば走者二塁で外野ヘヒットが打たれ、二塁走者は本塁へ向かった、外野手から本塁へ返球され、二塁走者は三塁を回ったところで間に合わないと見た三塁コーチに両手で止められ、三塁に戻った、このような場合には、即ボールデッドとなって、二塁走者にアウトが宣告されます。